第112話 屋台の完成です

 森に向かう途中、ローラはふとしたことに気が付く。


「ところで森の木って、勝手に切って使ってもいいんですかね? 誰かの所有物だったりするんじゃ……」


 以前、実家に帰ったとき、町の周りの森は領主の所有物だと母親から聞かされた。

 なら、王都の近くの森も、持ち主がいるのかもしれない。


 不安になったローラは一度学園に帰り、仮眠室でお昼寝していた大賢者を揺すり起こして、森の木を切ってもいいかと尋ねる。


「むにゃむにゃ……森の木? この辺のは全部、女王陛下のだから……少しくらいならいいんじゃないの……?」


「なるほど! ありがとうございました!」


「すぴー」


 また眠ってしまった大賢者に布団を掛けてやり、ローラは廊下で待っていた皆のところへ戻る。


「学長先生が、少しくらいなら木を使ってもいいと言っていました。もしあとで女王陛下に怒られたら、学長先生のせいにしておきましょう」


「い、意外とたくましい子アル……」


 大賢者のお墨付きを得たローラたちは、女王陛下の森に行き、白昼堂々と木を物色する。


「この木など手頃ではありませんか? おそらく、これ一本で屋台くらいなら作れますわ」


「そうですね! アンナさん、やっちゃってください!」


「任せて」


 ローラも腰に剣をぶら下げているが、ここはアンナに役目を譲る。


 アンナは背負った大剣を抜き放ち、真横に一閃。

 見事、大木を一刀両断にした。

 そしてローラとアンナで協力して、細かい枝を切り取り、立派な丸太を作る。

 それを皆でかついで、えいほえいほと王都の大工さんのところに運んでいく。


 次元倉庫に入れて運んでもよかったが、大工さんの前でいきなり丸太を出現させたら腰を抜かしてしまうかもしれないと思ったのだ。

 ローラはこれでも気配りできる九歳児なのである。


        ※


 そして一週間後。


『ラーメン屋 ラン亭』の前で集合した後、前と同じメンバーで大工さんのところに行く。

 すると見事な屋台が完成していた。

 車輪が付いてあるので、移動も楽ちんだ。


「ここに薪を入れて燃やすと、鍋を温められるようになってますね!」


「完璧アル。ありがとうアル」


 大工さんにお礼を言ってから、屋台をラン亭の前まで運ぶ。

 そしてラーメンを作るのに必要な道具を各種、運び出す。


「スープは既に仕込み終わっているアルよ。これを温めて、麺を茹でれば、すぐにラーメンをお出しできるアル」


「私たちも売り子として頑張りますよ!」


「頼もしいアル。実はこの一週間の間に、皆の衣装を用意しておいたアルよ」


「衣装……まさかチェイナドレスですか!? それは恥ずかしいですよ!」


「ローラちゃんは子供だから、別の衣装にしたアル。そのくらいの分別はあるアルよ」


「安心しました!」


 チェイナドレスは体のラインが出るし、なにより脚が丸見えだ。

 ローラは発育に自信がないので、チェイナドレスを着るのはもう少し大きくなってからにしたい。


「逆に言うと、わたくしたちはチェイナドレスですの?」


「そうアル。特にシャーロットちゃんは似合いそうアル。ミサキちゃんは耳と尻尾が特徴的だし、アンナちゃんもおっぱいは小さいアルがスラッとしていて綺麗アル。四人とも美少女アルよ」


 美少女と褒められ、照れるローラたち。

 しかし唯一人、おっぱいが小さいと言われたアンナだけは、自分の胸をペタペタ触り、複雑な顔をしていた。


「ぴー」


「ああ、流石にハクちゃんのチェイナドレスはないアルよ」


「ぴぃ……」


 ローラの頭の上でハクは悲しげに鳴いた。


「ハクには可愛いリボンがあるじゃないですか。今度色違いのを買ってあげますよ」


「ぴ? ぴー!」


 ハクは自分の尻尾にリボンが結ばれているのを思い出し、それを見て嬉しそうに跳びはねた。

 オシャレに敏感な神獣である。


「早く着替えたほうがよろしいのでは? お昼時を逃してしまいますわよ?」


「それもそうですね。ランさん、私たちの衣装は店の中ですか?」


「そうアル。中で着替えるアル」


 ローラはシャーロットたちのチェイナドレス姿が楽しみだった。

 それだけでなく、自分の服はどんなものだろうと胸を躍らせる。

 そしてローラたちはラン亭の売り子に変身した。


 シャーロットは十四歳とは思えないナイスバディなので、チェイナドレスがよく似合っている。

 大人の色気がぷんぷんだ。

 実際はかなり抜けたところがあり、とても大人とは言えないのだが、外見だけはセクシー美女だ。


 それと対照的にアンナはスレンダーな体型で、少女らしさに溢れている。

 これはこれでとても需要があるだろう。

 大人しそうな顔というのも、庇護欲をかきたてるに違いない。

 実際はその辺のモンスターならダース単位で倒せるくらい強いのだが、これも外見からは想像もできない。


 ミサキのチェイナドレスはお尻の上に尻尾を出す穴が空けられていた。

 そこから亜麻色の綺麗な尻尾が飛び出し、ピョコピョコ動いている。

 モフモフとチェイナドレスの組み合わせというのは破壊力が高い。


 そしてローラは――。


「ああ、ローラさん! なんてお可愛らしい姿に……お人形にして飾っておきたいですわぁ!」


 シャーロットは着替え終わったローラを見て、悲鳴に近い声を上げた。

 アンナとミサキも目を点にして見つめてくる。

 それに対しローラは、くるりと回ってスカートを広げて応えた。


 ランいわく、華ロリというらしい。

 全体の装飾はチェイナドレスに近いが、華ロリはしっかりとしたワンピースになっていて、スカート部はフリルが沢山。これなら恥ずかしくないし、単純に可愛らしい。


「思った通り、ローラちゃんはこっちのほうが似合うアル。頑張って作ったかいがあるアル」


「え、これってランさんが作ったんですか? 凄いですね!」


「裁縫はラーメンの次に得意アル。ローラちゃんの華ロリも、皆のチェイナドレスも、私が作ったアル。もちろん、私が今着ているのもそうアルよ」


 ランは自慢げに語る。

 実際、どこに出しても恥ずかしくない出来映えだ。

 もしラーメン屋で失敗しても、服屋さんで食べて行けそうだ。


「よーし。じゃあこの姿でラーメンを売りますよ! 場所は……冒険者ギルド前、です!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る