第102話 夢ではありません
ローラはついさっきまで遠足をしていたはずだ。
そして無人島でダイケンジャーやミニケンジャーと戦っていたのだ。
しかし、ここは見慣れた寮の自室。
シャーロットがローラを抱きしめてスヤァと寝息を立てているし、掛け布団の上ではハクが丸くなって眠っている。
はて。
あの遠足は全て夢だったのだろうか。
次元倉庫を駆使し、今までの戦いとはまさに次元の違うレベルで行なったあれは妄想だったのか。
だとすればガッカリだ。
あのわずかな時間で、自分はとても強くなれたのに。
「……シャーロットさん」
悪いと思いながら、ローラは自分を抱き枕にしているルームメイトを揺すり起こす。
「う、うーん……あらローラさん……お目覚めですの?」
「はい。それでシャーロットさん。私たちは遠足に行っていたような気がするんですけど……もしかして私の夢だったんですか?」
ローラがそう質問すると、シャーロットはパチパチと瞬きし、それからふふっと笑う。
「いいえ、夢ではありませんわよ。今朝までわたくしたちは無人島にいて、ローラさんはダイケンジャーに勝利したのですわ」
「すると、現実の出来事だったんですね。でも、じゃあどうして私はここで寝ているんでしょう? 帰ってきた記憶がないんですけど」
「それはローラさんが知恵熱を出して倒れてしまったからですわ。山頂での戦いでよほど疲れたのですね」
「ああ、それは確かに……かつてないほど集中しましたからね」
「だからといって、わたくしとアンナさんを砲弾に使うなんて酷いですわ」
「そ、それは……つい」
あのときはダイケンジャーに勝ちたい一心で、とにかく何でもやってやるという気持ちだった。
しかし今思い返すと、とても酷い行いだ。
親友を巨大な鎧に叩き付けるなんて、鬼畜の所業である。
「ごめんなさい……」
ローラはしゅんとしてしまう。
「……まあ、何が何でも勝ちたいという気持ちは分かりますわ。わたくしも、ローラさんと戦ったときはそうでしたから」
「私、あんなに勝ちたいと思ったの、初めてでした。勝負って、楽しいけど苦しいものなんですね」
「……そうですか。ローラさんにとって、勝負と呼べるのは、あれが初めてだったのですね」
勝負。つまり、やってみないと勝ち負けの分からない戦い。
勝ちたいという想いは自分の力を引き出してくれるが、つねに敗北の可能性が付きまとい、それが背筋が凍るほど恐ろしい。
だがローラは、それらをひっくるめて楽しいと思えた。
「スッキリと勝てたら、もっと楽しかったんですけど」
「あら。あの大賢者と戦って勝ったのですわよ? これ以上、何を望むというのですか。欲深いにも程がありますわ」
「いや、だって。ダイケンジャーの鎧って、どう考えても学長先生にとっては重りじゃないですか。格闘家の人とかが手加減するときにつけるアレです。手加減に手加減を重ねて、その上で更に手を抜いてもらって、ようやく勝ちを譲ってもらったような気がします」
「それはそうですが。勝ちは勝ち……と割り切れるものでもありませんわね」
「はい……」
どんな形でも勝てばよい。そういう人もいるだろうし、それはそれで正しい。
だがローラやシャーロットが望むのは、強くなることだ。
万全を期した相手と真正面から戦って、その強さを乗り越える。
それでこそ勝
譲ってもらった勝ちに利はないのだ。
「であればローラさん。次こそ勝利すればよいのですわ。幸いにも、命を懸けた戦いではないのですから、何度でも挑めます。三百年近い時を生きる大賢者に対し、わたくしたちは幼いのです。時間が経ってより成長するのはわたくしたちですわ」
「そうですね。私、もっと頑張って、強くなって、学長先生を倒します!」
「まあ、その前にわたくしがローラさんを倒し、そして学長先生も倒してしまいますけど」
「む!? そうはいきません!」
そんな話を深夜にしていたら、掛け布団の上で寝ていた神獣がもぞもぞと動き出した。
そして眠そうな顔をローラとシャーロットに向けてくる。
「ぴぃ……」
頼むから静かにしてくれと訴えるような声だった。
「ご、ごめんなさいハク。起こしちゃいましたね……」
「もう眠りましょうローラさん。明日から、また修行の日々ですわ」
「はい! お休みなさい!」
ローラはシャーロットの胸に顔を埋め、瞼を閉じた。
さっきまでずっと寝ていたから別に眠くはないのだが、いつでもどこでも眠れるのがローラの特技だ。
(それにしても、一番乗りした人はご褒美をもらえるという話はどうなったんだろう?)
ふとした疑問を思い出したが、明日大賢者に聞けばいいやと思い直し、ローラは夢の世界に旅立っていった。
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