第101話 ダイケンジャーとの決着です

「シン・ハクゲキ砲! 薙ぎ、払えっ!」


「ピィィィィィィィッ!」


 ハクの口から伸びたオレンジ色の光線が、左から右へと一文字に走る。

 ダイケンジャーの胴体を切断してしまおうというのだ。

 そしてローラは、ハクにだけ攻撃を任せておくつもりはない。

 自分の目に魔力を集め、そこから光の矢を発射する。

 これは別に目から出す必要はないが、何となく格好いいから目から出してみたのだ。

 現在ダイケンジャーがいる場所に一発、そしてダイケンジャーが回避行動した際に移動するであろう予測地点に二発。計三カ所へと撃つ。斉射三連である。


 これだけ撃ちまくれば、どれかが命中するだろう。

 どれもこれも、ギルドレア冒険者学園を一瞬で廃墟にできそうな攻撃だ。

 一発でも当たれば、普通なら跡形も残らない。

 もっとも相手は大賢者が操るダイケンジャーだから、決定打にはならないだろう――。


 そうローラは予測していた。

 そして、その予測は裏切られた。

 なんと、一発も命中しなかったのだ。

 というよりダイケンジャーは姿を消してしまった。


「向こう側の世界に移動して回避……その手がありましたか!」


 次元倉庫は収納だけでなく、攻撃にも回避にも使用できる。

 おそらく、じっくり考えればその応用法はいくらでも出てくるだろう。

 もともと凄い魔法だと思っていたが、まさかこれほど凄まじいとは。

 次元倉庫を使える者と戦うには、次元倉庫が使えないと話にならないではないか。


(どこから攻撃が……)


 ローラは全神経を集中させ、周囲一帯の次元の揺らぎを観測する。

 門が開く直前に、魔力が溢れてくるはずだ。


「上!」


 そしてローラは頭上を見上げる。

 確かにそこにはダイケンジャーがいた。

 ただし、右腕だけ。


(おとり!? じゃあ本体は)


 既にローラの注意は上に向いていたので、意識の切り替えが間に合わない。

 その間隙を突くように、地面の下から魔力が溢れ出す。

 そう。次元倉庫の門が地中で開いたのだ。

 ダイケンジャーの体積に押され、地面が引き裂かれ、そこからアッパーパンチがくり出される。


「にゃあああ!」


 ローラはその不意打ちに対応できず、空に飛ばされる。

 が、同時に空からはロケットパンチが落ちてくるのだ。

 つまり挟み撃ち。

 サンドイッチにされてしまう。


「ピィィィィィィィッ!」


 しかしハクが機転を利かせ、指示していないのに口から光線を出した。

 ロケットパンチを貫き、それから首をグワングワン動かす。

 そのおかげで、ダイケンジャーの右腕は微塵切りになった。

 ロケットパンチとしての機能を失い、金属片となってパラパラと落ちていく。


「ハク、ナイスです!」


 それでもローラは、アッパーによって天高く放り投げられてしまう。

 だが次元倉庫を使いこなせば、三次元的な位置関係はもはや意味をなさない。

 そしてローラは今、次元倉庫の練習中だ。

 積極的に使用して、大賢者の意表を突いてやる。


「瞬間、移動!」


 空を上昇しながら、門を開いてあちら側へ移動。

 そして、ダイケンジャーの真後ろに出現。

 空中から蹴りを入れる。

 が、ダイケンジャーもまた次元倉庫へ逃げていく。


 そこからは互いに次元倉庫とこちらの世界を行き来して、魔力と魔力のぶつけ合いが始まった。

 門からこちら側に出た途端、空から雷が降ってきたり。

 逆にダイケンジャーが出てくる場所を予測して、あらかじめ巨大精霊を複数待機させてみたり。

 もしくは、次元倉庫の真っ暗な世界で、勘だけを頼りに魔力を込めた拳で殴り合うということもやった。


 いまやローラの集中力は極限まで高まり、次元倉庫の中から、元の世界の様子をうっすら感じ取ることすら可能としていた。

 ゆえに不意打ちを喰らうことはない。

 逆にダイケンジャーを追い詰めていく。

 そこにハクの光線が援護射撃として加わってくれるのだから、もはやローラのほうが優勢だった。


 そして遂に、追い詰める。

 ダイケンジャーが次元倉庫から飛び出し着地した先は、ローラが作ったスケートリンクだった。

 ダイケンジャーはツルリと滑って転びそうになる。が、飛行魔法でその巨体を浮かび上がらせ、事なきを得た。

 しかしそれでも、わずかなタイムラグが生まれる。

 その瞬間を狙って、ローラはありったけの魔法をぶっ放した。

 まずは巨大精霊の召喚。炎の精霊。雷の精霊。土の精霊。それら三体が三方向からダイケンジャーに体当たりをかます。

 無論、ダイケンジャーは次元倉庫に逃げ込もうとするが、ローラの研ぎ澄まされた集中力は、それに干渉して妨害するという離れ業を成功させた。

 三属性の精霊はダイケンジャーによって討ち滅ぼされたが、しょせん、それらは第一波。

 次は光の砲撃。それも呪文詠唱付きだ。


「光よ。我が魔力を喰らえ。集え、従え、平伏せよ。そして命じる。万象を蹂躙せよ。王が誰かを知るがいい――」


 その一撃は、ローラにとっても過去最大の威力を秘めたものだった。

 昨日、撃墜された悔しさ。今日、ダイケンジャーと戦って感じた楽しさ。この二つがかつてない早さでローラを成長させている。

 空に浮かぶダイケンジャーへ、目も眩む閃光が伸びていく。

 だがそれは、かつて校内トーナメントの決勝戦で見せた、王都上空を炎で包むような攻撃魔法とは違う。

 あれは見た目は派手だったが、目標以外にも力が及んでいるという点で未完成。

 魔力を無駄に使っている。

 ハクが見せてくれた力の収束が、ローラにヒントを与えた。

 魔力の一点集中。

 面より点。

 斬撃より刺突。

 莫大極まる魔力を込めた光の砲撃は、まさにダイケンジャー一体分の大きさに集まり、ピンポイントでこれを打つ。

 それ以外の場所では、木の葉一つ燃え上がらない。

 ただ眩い光と轟音が漏れるだけだ。


 ところが、破壊力を集中させすぎたがゆえ、ダイケンジャーがわずかに回避しただけで、狙いがズレてしまう。

 標的の下半身を消滅させることには成功したが、上半身はそのままの姿でローラに落下してくる。


 ローラは一点集中攻撃の二発目を撃ちたいが、まだ不慣れなので、チャージに0.5秒はかかる。ダイケンジャーの体当たりはそれより速い。

 しかし、ローラの頭の上には頼りになる神獣がいる。


「ピィィィィイイイイイイッ!」


 シン・ハクゲキ砲がダイケンジャーに伸びる。

 残念ながらこれは紙一重で回避されたが、おかげで0.5秒稼ぐことに成功。

 光の砲撃、第二射。発射。

 ダイケンジャーはそれに飲み込まれ、今度こそ完全に消え去る――。

 が、光が消えたのち、新たな敵が中から出現する。


「ミニケンジャー!」


「そ、そんな馬鹿な!」


 それは等身大の鎧だった。

 どうやらダイケンジャーの中に隠れていたらしい。

 しかも恐るべきことに、内包している魔力量がダイケンジャーと変わらない。

 一方、ローラはもうフラフラだった。

 放出した魔力の量が凄まじいというのもあるが、それよりも覚えたばかりの技術を連続使用したことによる精神的疲労が幼い体を蝕んでいた。

 第三射を撃つ余裕は、もうなかった。


(ね、眠い……)


 戦闘中だというのに睡魔に襲われる。

 そしてローラにとって眠るというのは、すなわちシャーロットに抱っこされている状況を意味する。


(シャーロットさん……そうだ、いまこそ!)


 思いついたローラは、次元倉庫からシャーロットを呼び出した。

 新たに攻撃魔法を使うより、次元倉庫にしまってあるものを呼び出す方が、まだしも魔力消費が少なかった。


「「ぎゃあああああ!」」


 シャーロットは超高速で発射される。

 その脚に捕まってアンナも飛び出してきた。

 ローラは眠たい頭に鞭打って、シャーロットとアンナに円錐状結界で包む。


「うっそ、このタイミングで二人を使うの!?」


 ミニケンジャーから大賢者の驚いた声が聞こえる。

 どうやら意表を突けたようだ。

 そしてローラの親友砲弾はミニケンジャーに激突する。


 ミニケンジャーが砕け散った。

 反動でシャーロットとアンナが落ちてきた。

 そして今度は、ミニケンジャーの中から大賢者本人が出てくる。

 囚われのお姫様という設定のくせに、最後の敵の中に入っていたのだ。


「ありがとう皆……あなたたちが頑張ってくれたおかげで、私は敵の支配から解放されたわ……」


 どうやら、今までのは操られていたという設定が追加されたらしい。

 後付けだらけだ。

 小説だったら編集と読者にダメ出しされる類いである。


「と、とにかく、これで遠足、クリアです……」


 集中力の限界に達したローラは、大賢者の言葉を聞きながら、パタリと倒れる。

 そのあとどうやって学園に帰ったのか記憶にないが、目覚めると真夜中で、寮のベッドでいつもの如くシャーロットに抱き枕にされていた。

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