第74話 ソロ狩りでした
ローラはふわふわと浮かび上がり、森の上から王都がある方角を確認する。
そして皆でリンゴを食べながら、家路についた。
残念ながらアンナが何をしているのか確かめることはできなかった。
しかしリンゴが美味しいので満足だ。
あとで大浴場でアンナを見かけたら、直接、探りを入れてみよう。
そんなことを言い合いながら歩いていると、遠くから爆音が聞こえてきた。
「何の音でしょうか?」
「きっと誰かがモンスターと戦っているのでしょう」
「あんな大きな音を出すということは、かなり強いモンスターであります。早く逃げるであります」
「何を言っていますのミサキさん。強いモンスターなら、是非とも見学しなければ!」
「同感です! ハクも見たいですよね!」
「ぴー」
「……危険が迫ったら、ちゃんと私を守って欲しいであります」
「大丈夫です、お任せです!」
というわけで、三人は爆音がした方へと走って行く。
移動している最中にも、音と振動が伝わってきた。
どうやら木が何本も倒れているようだ。
そして現場まで辿り着くと、そこにいたのは虎だった。
ただし、普通の虎ではない。
額から刃のように研ぎ澄まされた角を生やした虎。
音速の突進速度を誇るモンスター、ホーンライガーである。
「戦っているのはアンナ殿であります!」
ミサキの言うとおり、ホーンライガーが見つめる先で剣を構えている少女は、ローラたちの親友アンナだった。
もう随分と長いこと戦っているらしい。
周りの木々は何本も切り裂かれており、そして地面に溝が走っている。
ホーンライガーの音速突進によって抉れたのだろう。
よく見れば、既にアンナによって倒されたと思わしきホーンライガーの死体が二つ転がっている。
今対峙しているのは、最後の一匹だ。
「見つからないように隠れましょう」
ローラたちは木の陰に身を隠し、顔を半分だけ出してアンナとホーンライガーの様子をうかがう。
それにしても、アンナはどうしてこんな所でモンスターと戦っているのだろうか。
しかもホーンライガーはCランク指定のモンスターだ。
ギルドレア冒険者学園の校則で、在校生はCランク指定以上のモンスターと戦ってはならないことになっている。
つまり、これは立派な校則違反。
教師たちにバレたら、どんなお叱りを受けるか分からない。
「くっ、アンナさん。わたくしに黙ってこんな修行を……ズルイですわ!」
「シャーロットさん、大きな声を出したら見つかっちゃいますよ」
ローラたちが見守る中、ホーンライガーはアンナへと突進していった。
音速を超えた瞬間、爆音とともに周りの落ち葉や枯れ枝が弾け飛び、更に地面が抉れていく。
常人では目視すらできず一瞬で串刺しにされ、何だか分からないうちに絶命してしまうだろう。
だが、アンナは無論のこと常人ではない。
強化魔法を発動し、体を魔力で包み込む。
そしてホーンライガーを真っ向から迎え撃つ。
突き出された超音速の角をギリギリで回避し、すれ違いざまに剣を振り抜く。
ホーンライガーの首に突き刺さった剣は、アンナの力とホーンライガー自身の突進力により肩から腹へと潜り込んでいく。
血が飛び出し、臓物が落ちる。
確実に死んだ。
しかし、超音速まで加速したホーンライガーはすぐには止まれない。
四肢から力が抜けて倒れても、そのまま地面を転がっていき、噴煙を上げる。
大樹に激突し、それを激しく揺らして、ようやくホーンライガーの死体は停止した。
「アンナ殿、凄い動きだったでありますなぁ」
ミサキは小声で呟く。
今の戦いがちゃんと見えていたというだけで、ミサキも十分に凄い。
しかし、確かにアンナの太刀筋は見事だった。
夏休みの間、ブルーノにみっちりしごかれた成果だ。
ローラは親友の成長に喜びつつ、ライバル心を密かに燃やす。
「おや。アンナさん、ホーンライガーの死体を引きずって王都の方へ歩いて行きますよ。どうするつもりなんでしょう?」
「ホーンライガーの角は、武器の素材として高く売れますわ。肉は筋張っていて不人気ですが、皮や骨には利用価値があります。きっとギルドで売るのでしょう」
「なるほど……アンナさん、やっぱりお金に困ってるんでしょうか?」
「校則違反をしてまで稼ぐ必要があるほど追い詰められていたなんて……水くさいですわアンナさん。お金なんて、わたくしが何とかいたしますのに……」
「友人からお金を恵んでもらうのが嫌だったでありますかなぁ?」
「それを水くさいと言うのですわ!」
シャーロットはむすーっとした顔になる。
そうしている間に、アンナはホーンライガーをズルズル引きずり、遠くに行ってしまった。
ローラたちは木の陰などに隠れながら、慎重に追いかけて行く。
果たして、アンナは稼いだ金を何に使っているのか。
穏やかじゃない気配がするので、友達として確かめる義務がある。
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