第35話 スカイフィッシュ狩りです

 一年生のトーナメントは終わったが、まだ二年生と三年生が残っている。

 しかしローラとシャーロットの戦いで、リングが消滅してしまった。

 これでは試合が行えない。

 そこでローラは土の精霊に呼び掛け、リング状に地面を盛り上げた。

 そのおかげで、何とか全ての日程が予定通りに進んだようだ。


 大賢者自ら王宮に乗り込み、女王陛下に『王都上空の戦いは学校行事』だと説明をしたらしい。

 一体どんな方法で説明したのかは不明だが、噂によるとほとんど恫喝に近かったという。

 とにかくローラもシャーロットも、何かの責任に問われる心配はなさそうだ。


「放課後ですよ、シャーロットさん」


「言われなくても知っていますわ。何をはしゃいでいますの?」


「今日は午前で授業が終りなのです!」


「だから、知っていますわ」


「なので、皆でモンスター狩りに行きましょうよ! アンナさんも誘って!」


「モンスター狩り……修行になるのでいいですけど……」


 というわけでローラはシャーロットを引っ張り、それから戦士学科でアンナを拉致し、冒険者ギルドまで駆けていく。

 前回のリヴァイアサンの一件では無茶をし過ぎてエミリアに怒られてしまった。

 なので今回は校則を守って、Dランク以下のモンスターと戦う。


「あっちの壁に、今週のモンスター分布予想図が張り出されてる」


 とアンナが説明してくれた。


「おおー、天気予報みたいですね」


 王立気象観測室が発表する天気予報は的中度が高い。

 なにせ魔法使いが空から広範囲を観測し、過去の膨大な統計データをもとに予想するのだ。

 この国の農作物が毎年豊作なのは、天気予報の精度によるところが大きい。


「できるだけ強くて大きくて群れをなしているモンスターがいいですわ。まあ、Dランク以下はどれも似たようなものでしょうけど」


「私のオススメは一角ウサギ。前にも言ったけど、簡単に倒せるわりに高く売れる」


「そんな如何にも初心者向けのモンスターは嫌ですわ!」


「わがまま」


「当然の主張ですわ!」


 シャーロットとアンナが言い争っているのを尻目に、ローラは真面目にモンスター分布予想図を見つめる。


「あ。スカイフィッシュなんてどうです? Eランクなので校則違反にはなりませんよ」


 スカイフィッシュのことは、授業で習ったばかりだ。

 成人男性ほどの長さの棒状の生き物で、岩の隙間に生息している。

 主に昆虫を食べており、エサを見つけると岩から飛び出し、超音速で捕食。そのまま別の岩の隙間に潜り込むという。

 スカイフィッシュそのものは食用に適さないが、これを瓶にいれ酒と一緒につけておくと、大変美味しい『スカイフィッシュ酒』になるらしい。

 なんでも、空も飛べそうな爽快感だとか。

 もっとも、ローラたちは子供なので、酒のことは分からない。


「このメンバーでEランクのモンスターですの?」


 シャーロットは露骨に嫌そうな顔をする。


「スカイフィッシュは動きが速い割に長距離移動はしません。なので住み処のそばに罠を仕掛ければ簡単に捕えることができます。だからEランクなんです。けど、罠を使わずに捕まえようとしたら、難易度がいっきにあがります。ですから、素手で捕まえましょう!」


「スカイフィッシュを素手で……ローラさん、ナイスアイディアですわ!」


 修行マニアのシャーロットも満足してくれた。

 ところが意外なことにアンナが異論を挟む。


「待って。スカイフィッシュの生息地のそばにベヒモスが住み着いたって書いてある」


 ベヒモスはA-のモンスターだ。空を飛べないからドラゴンより格下にされているが、パワーだけならほぼ同等と言われている。


「もし遭遇して倒しちゃったら、また怒られる」


「大丈夫ですよ。出てきたら逃げればいいんです」


「このメンバーで上手くいく? シャーロットがうっかり倒しそう」


「うっかりというか、積極的に倒しますわ。偶然遭遇したのであれば正当防衛。こちらに非はありません」


 シャーロットは自信たっぷりに言うが、本当だろうか。

 ローラが思うに、ベヒモスがいるような場所に行くことそのものを怒られる気がする。


「お嬢ちゃんたち、ベヒモスが心配なのか? なら安心だ。なにせ、あの『真紅の盾』と『ホークアイ』が討伐に向かったからな。明日か明後日には死体を持ち帰ってくるんじゃないか? はっはっは」


 冒険者が後ろから声をかけてきた。

 真紅の盾とホークアイといえば、王都周辺では特に名の知れたパーティーだ。

 その実績は同じ冒険者からも尊敬されている。

 ローラたちに声をかけてきた冒険者が我が事のように語っていたのがいい証拠だ。


 もっとも真紅の盾は先日、リヴァイアサンによって壊滅しかけたところを、なぞの三人組『着ぐるみ戦隊パジャレンジャー』によって救われ、少々評価が下がったらしい。


 着ぐるみ戦隊パジャレンジャーの正体は、大賢者の弟子だとか、国が作った新型ホムンクルスだとか、ギルドレア冒険者学園の女子生徒が正体を隠すために変装していたとか、色々言われている。


「お嬢ちゃんたち、その制服を見る限り、ギルドレア冒険者学園の生徒だろ? 俺はクエストがあったから見てないが、校内トーナメントでやたら強い一年生が出てきたらしいじゃないか。お嬢ちゃんたちも負けないように頑張れよ。はっはっは」


 冒険者は笑いながら去って行った。


「そっか……私たち、闘技場に来ていた人たちに顔を見られているんですね。あの人は見ていなかったようですが……今度から人が多い場所に行くときは紙袋とか被ったほうがいいかもしれません」


 ギルドに来るまでの間、妙に視線を感じると思ったら、そういうことだったのだ。


「え、どうしてですの? 注目を浴びるのは素晴らしいことですわ」


 シャーロットは首を傾げて言う。

 視線を集めるのが恥ずかしいという概念がないらしい。


「……まあ、趣味は人それぞれですからね。とにかく、スカイフィッシュの生息地まで行きましょう!」


 王都を出る前に、紙袋を三つ購入する。

 念のため、である。

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