第387話.キューピッドの進化
レッサーキューピッドの後方から、1体のキューピッドが出てくる。背丈は変わらないが、赤い仮面で目だけを隠している。でかい頭の目だけを隠し、丸くくり抜かれた目だけでカボチャ頭は隠せていない。仮面をとっても素顔は変わらないだろうし、何の為に隠しているのかが分からない。
「グレーターキューピッドだ。レッサーとは比べ物にならん」
しかし、ソーウンの顔からは笑みが消え、真剣な表情に変わっている。
「警戒して損したな。残念なヤツの部類だろ」
『ええ、中身は空っぽみたいね。レッサーキューピッドよりも身体能力が高い程度かしら?』
「あの仮面も欲しくないな。趣味が悪すぎる」
『身体能力は進化しても、センスが進化しないのは不思議よね。あれ以上磨きがかかったら、精神的なダメージを与えることは出来るかもしれないけどね』
ソーウンが警戒しているので、一応は気にしてはみたが、驚異は感じられない。だが俺達の反応とは違って、ソーウンは警戒を緩めていない。
「なあ一応、レッサーキューピッドよりも上位なのは分かるけど。まさか、あの仮面に憧れとか持ってないだろな」
俺の突っ込みに、ソーウンの表情が初めて曇る。ソーウンの感情の声にも初めて動揺の声が聞こえる。
「図星か?」
「五月蝿いっ、黙って見てれば分かる」
『だから、センスの悪さがうつりそうだから嫌だって言ってるのよ』
ムーアがグレーターキューピッドを指差すと、指差されたグレーターキューピッドは仮面を投げつけてくる。やはり仮面を外しても、出てきたのは同じ顔。
『あら、怒ったわね。分かるのかしら?』
ここからでは、俺達の声は聞こえない。それに、聞こえたとしても、言葉の意味は分からない。ただ、俺とムーアの馬鹿にしたような態度だけは伝わり、怒りの感情の声がハッキリと聞こえてくる。この距離で聞こえる感情の声ならば、怒りも相当になる。
そして、その怒りは残っているレッサーキューピッドに向かうと、次々と喰らい始める。キラキラとレッサーキューピッドの体の消滅が始まり、間違いなくグレーターキューピッドは殺している。
「あれって、八つ当たりじゃないよな?」
グレーターキューピッドが襲いかかってはいるが、レッサーキューピッド達は無抵抗で受け止めるどころか、率先して身を捧げているようにさえ見える。
『吸収して進化しようとしてるのかしら?』
「こんな低層で、そんな魔物が出たらマズいだろ」
レッサーキューピッドの消滅と、ウィスプ達のサンダーボルトの乱れ打ちで視界が悪いが、次第にグレーターキューピッドの翼が薄っすらと赤く染まり初めている。
『ほら、見た目が変わってきたんじゃないの?』
翼が赤く染まると、今後は体も赤く染まり始める。魔物の体は消滅してしまうのだから、グレーターキューピッドの体が血や体液で染まることはない。
『やっぱり、レッサーキューピッドを食らって進化しているのよ』
「もしかして···」
吸収し成長するキューピッドが、どことなくハーピーの姿と被って見える。しかし、ラガート達と比較するとなるとプライドを傷付けてしまう気がして、口には出せない。だが、完全に体が赤く染まったグレーターキューピッドは、ハーピーと同じ進化の過程を辿っている。
だが、俺が口に出さなくともラガートも気付き、黒翼を大きく広げる。それは、自身の強さをグレーターキューピッドに見せつけ威嚇する行為でもあり格の違いを見せつけている。
「これ以上の進化はマズいだろ。上位種に進化すれば、簡単に倒せなくなる」
少しずつグレーターキューピッドの体は濃くなっている。このまま食らい続ければ、全身が黒く染まってしまうのも時間の問題。これ以上は、吸収させてはいけない。
『まだ、大丈夫よ。そこまでのレッサーキューピッドは残っていないわね』
少しずつ、グレーターキューピッドの周りの視界がクリアになってゆく。それは、視界の悪さの原因となっているレッサーキューピッドの数が少なくなっていることの証明でもある。
「まだ、赤いままか。ジェネラルクラスなら、倒すのも難しくないな」
『でも、グレーターキューピッドの方は満足してるみたいね』
「ああ、不思議なもんだ。どれも同じ目と口の形なはずなのに、感情は違ってみえる」
『それは、貴方の気持ち次第でしょ』
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