第386話.とっておき

 魔力を使い果たしたと言いながらも、ソーウンはニタニタと笑って余裕を見せ、完全に魔力切れになった訳ではない。


「手の内を見せろって言われてもな、俺達のことに気付いてるんだろ」


「さあな、何が見れるか楽しみなだけだ」


 ソーウンからは、オニ族の副族長として俺達を品定めするというより、戦闘狂の好奇心しか感じとれない。だが、期待通り俺達の全てを簡単に見せるわけにはいかない。


「地味に面倒臭いな。わざとレッサーキューピッドを残しただろ」


「簡単な依頼なんて、面白くねーだろ」


 上を見上げれば、広範囲に渡って群れとなっているレッサーキューピッド。それを相手にして、慣れない冒険者達だけでなく、畑や野菜に被害を出さない戦い方となれば、必然と選択肢は限られてくる。


「もう知ってるんだろ」


 2対4翼、白と黒の精霊と魔物の翼が現れると、ソーウンの目が鋭さを増す。


「まずは、優位性を消してからだ」


 ここまでならば、すでにフタガの岩峰で知られている。見せても問題ないが、それでも間近で見られるのは初めてであるし、以前よりも格段に能力は上がっている。上空の優位性を消すと言いはしたが、空へと移動することで間近で観察されるのを防ぐ目的もある。


『大丈夫よ。見せてあげるわ、とっておきのヤツ』


 しかしここで、ムーアがパチンと指を鳴らす。俺が舞い上がると同時に、ブレスレットが光に包まれる。そこから出てきたのは、オヤの地下に捕らえられていたウィスプ達。ルーク·メーン·カンテがそれぞれが百体ずつを率いた3百体の群れも、一斉に空へと舞い上がる。


 一気にレッサーキューピッドと同じ高さにまでに到達し、さらに上昇を続ける。レッサーキューピッドも今までにない初めての経験に、動きを止めて呆然としていたが、俺達を見上げると姿勢になったことで初めて我に返る。


 もちろん既に攻撃されているのだから、それ悠長に待ってやる理由なんてない。


「ウィンドウトルネード」


 それが開戦の合図となり、ウィスプ達も一斉にレッサーキューピッドに襲いかかる。接近されて初めて、今の状況を理解したのか、構えていた弓を下にいる冒険者から、俺達に向けるが時既に遅し。判断するまでの一瞬の遅れは致命的で、レッサーキューピッドが攻撃するよりも先に俺達の攻撃が届く。

 ウィンドトルネードの中に自ら飛び込み、レッサーキューピッドの群れの中へと飛び込むルーク達。遠距離攻撃で、的確に狙うのはメーン達。広範囲に展開し、雷の弾幕を張るのはカンテ達。それぞれが役割分担し、的確に役割をこなす。

 レッサーキューピッドは、名の通り下位種でしかなくルーク達の攻撃でなくとも、カボチャ頭に魔法が命中すれば、簡単に消滅する。


 そして、ウィスプ達の中に混ざっていたのは、ハチ人族の元隊長であったミツハ。


 ウィスプ達の中に混ざって、巧みにウィスプ達の配置や攻撃目標を指示している。もうハチ族が揃いで身に付けていた黒の鎧姿ではない。ウィスプ達と共に動くことを優先とした軽装で、色も黄色一色に染めている。


 最初こそルーク·メーン·カンテのそれぞれが率いていたが、次第にミツハの存在感が増す。そこは、今までハチ人族を率いてきた経験のなせる技。戦況や味方の動きを見つつ、状況に合わせた判断をする為には知識だけでは限界があり、経験が絶対に必要になる。集団で戦うことの経験がない、ぼっち集団の俺達にとっては、ミツハの経験は得がたいものでもある。


 指揮がミツハに移れば、ルーク達は自身の力を最大限に発揮する為の行動をへと変わり、さらにレッサーキューピッドを圧倒する。


 お決まりの、カンテがサムズアップ。もう、レッサーキューピッド相手に俺の出番はなく、降下を始める。


「どうだ、満足したか?」


 数には数で対抗し、ソーウンと比べても効率的で無駄打ちが少ない。


「ありゃ、ハチ族じゃねーのか?こんな所で何してやがる」


「俺をトーヤの族長と元へ連れてゆく任務中だ。まずは、俺の信用を得るところから始めたみたいだな」


「それなら、仕方ねーか。せいぜい頑張んなとしか言えんな」


『どう、これで依頼達成でしょ。水のダンジョンでは好きにさせて貰うわよ』


「まだ終わっちゃいねーぜ。最後にあいつが出てくる」

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