第376話.ガチノキシダーンの装備

「はあっ」


 俺のマジックソードと変わらない長剣の性能に、落胆のため息がもれる。


『今度は何を試すのかしら?』


 俺は何もしていないが、ため息に反応した長剣が勝手に動き出している。しかし、ムーアには俺がマジックソードを操作しているにしか見えていない。幾らマジックソードに似ているといっても、俺が作り出したものではないのだから、制御することなんて出来ない。


「いや、俺は何もしていないんだが···」


『じゃあ、誰がやってるの?もしかして、私達に襲いかかってくるつもり?ガチノキシダーンの残滓かしら?』


「それは、分からない!」


 人気のない場所であるとはいえ、逃げ出して暴走すれば少なくない被害が出る。マジックシールドを操作して動きを抑え込みにいくが、長剣はいとも簡単に躱してしまう。


「ミュラー!」


 今度はマジックシールド2枚に、ミュラーの盾も加わえた3枚。次々と長剣に体当たりさせるが、触れることさえ敵わない。


 そして、俺とにらみ合いとなって対峙する長剣。しかし、そこから襲いかかってくることも逃げることもない。


「ダーク兄さん!」


 フォリーの叱責で、ダークの紫紺の刀が動き出す。刀や剣を操る技量·アジリティーならば、俺たちの中であればダークが一番。

 ただ宙に浮かぶ長剣に対して襲いかかっても、どう勝負をつけるかは見えない。普通ならばどこかに、長剣を操る存在がいる。それを倒さなければ、長剣の動きを止めることは出来ない。


 ただそれはダークの技量が上回ったときの話で、2本の紫紺の刀と1本の長剣は対等に渡り合い、どちらも一歩も譲らない。


 後の残された手がかりは、ガチノキシダーンの鎧。しかし影の中から取り出したプレートメイルは、大きく姿を変えている。全身を覆う鎧は、胸当てや籠手·脛当だけの部分的な防具に変わる。そして白金に輝いていた色は、紺青色に変わっている。


『アシスの世界に触れたからかしら?』


「長剣と一緒で、力が弱まったのかもな?」


 しかし、姿を変えた意味はそれだけじゃなかった。勝手に動くのは長剣だけじゃない。バラバラとなった鎧も勝手に動き出すと、俺の体に収まる。


 俺の意思とは関係なく、手足が勝手に動き出す。鎧に体を支配され、抵抗することは出来ない。精神まで支配されてしまえば、完全に暴走してしまう。


「イッショ。乗っ取られるなよ、抵抗するんだ!」


 しかし、イッショからの返事は聞こえない。気付けば手には長剣が握られ、ダークの紫紺の刀を相手に切り結んでいる。

 当初は互角であったが、俺に握られてからはダークは押され始める。俺の力が加わったことと、俺を傷付けてはいけないというダークの躊躇いが動きを鈍らせる。


 パキッーーーン


 紫紺の刀が折れると、立て続けに2本目も折れてしまう。加減されたといっても、あまりにも実力の差は大きい。


 ダークの紫紺の刀が折られ、全ての精霊の動きが止まる。だが、そこで俺の体も鎧から解放される。そして、再び長剣は俺の手を離れると宙を漂い、俺の目線の高さで動きをとめる。


「一体何が目的だ?」


『カショウ、何してるの?』


「えっ?」


 ムーアが声を掛けたのは、長剣ではない。俺の方を向いているが、身に纏わされた鎧にでもない。


 そして、俺に向けられムーアの視線が痛い。


『ゴブリンキングの王冠の仕業でしょ!長剣も鎧も、ゴブリンキングの王冠に従ったんだから!』


「それでも、俺から解放されるための反抗なのは間違いないだろ!」


『残念だけど、王冠の主はクオンなのよ。名付けもしてしまってるわ』


「クオンの名付けに、効力はあるのか?」


『契約としての効果なくても、それなりに関係性は出来上がってしまってるのよ』


「クオンを裏切る可能性は···」


 仮定であってもクオンを裏切るという想像が、精霊達を凍りつかせる。


『冗談でも、そんなことは言わないでちょうだい!そんなこと出来るわけないでしょ!』


「でもな、万が一って不安はあるだろ。常に正常な判断を下せるなら心配はしない」


『それならば、正式に契約で王冠を縛るしかないわね!』


 影の中から王冠が出てくると、俺達に少しだけ頭を下げる。


 切実な王冠の感情の声が聞こえる。いつどうなってしまうか分からない環境下に置かれ続けるならば、最初から契約に縛られる関係性になった方が安心出来る。だからこそ、有用な存在であると力を示した!


『ダメよ、契約はクオンとよ』


「そうだな、クオンの下僕の“リオ”。これで安心出来るだろ」

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