第375話.本当の姿

 最初に異変が起こったのは、ソースイの黒剣。黒剣に向かって光が集まると、それは次に漆黒の盾、ホーソンの黒槍にチェンの大鎌と、次々に伝播してゆく。


「これは、何が起こっているんだ」


「黒剣に本当の色が戻っているんだよ」


 アシスとラノウベでも、全てのものが違う訳ではなく、無属性のように共通した理もある。


 そして、色彩も共通した理の1つ。


 色彩の精霊と契約した瞬間に、黒剣に異変が起こったということは、黒剣が本来の色を奪われていたことになる。それも、俺と契約した色彩の精霊マンセによって、色が奪われている!


 奪われていた黒剣の色彩が元のあるべき場所へと戻される。黒かった剣身は、まだ黒くはあるが青みががり、刃は完全に白く変わってしまう。


「ソースイ、何か違いは?」


 感覚を確かめるように柄を握り直し、剣を軽く振るう。


「いえ、特に変わった感じはしませんが」


「じゃあ、スキルは?」


 今度は、元黒剣を天に翳して魔力を込める。


「グラビティ」


 するとスキルを魔法が発動した瞬間に、ソースイ手から黒剣が滑り落ちてしまう。それは石畳に突き刺さるというよりは、剣身の半分までが吸い込まれるようにして飲み込まれ、ソースイは唖然とした表情を見せて固まってしまう。


「何があった?」


 元黒剣に拒絶されたようにも見える光景。姿を変えたことで、所有者を選ぶ存在までに昇華したのかもしれない。


「いえ、いつものように軽く魔力を込めたつもりなのですが、スキルの効果が大きすぎて」


 そして何事もなく両手で柄を掴んで、剣を引き抜く。剣を扱うには問題ないが、スキルの扱いには繊細な魔力コントロールが必要になっている。


 それは、ホーソンの槍やチェンの大鎌も同じ。


 ホーソンの黒槍は、槍を持つだけで魔力の吸収が始まってしまう。そして槍を振るえば、吸収した魔力が石の槍へと変換されて放たれる。ホーソンの属性に影響されるようだが、ホーソン以外の者が槍に触れることを拒絶する。


 チェンの大鎌は、風属性と水属性の2つの属性を纏い、2属性の魔法が同時発動する。纏った風と水はチェンの攻撃を助けるだけでなく、飛行性能も大きく向上させてしまう。


「カショウ、これが元の力を取り戻した姿なんだよ」


 色彩が戻ったことで、全ての力や機能を取り戻す。形や材質に魔力、刻まれた紋様だけでなく、色にも意味がある。そして、そのどれもが大きな力を発揮する。


「なあ、ナレッジ。全部ではないけれど、少しだけ色を戻せないのか。このままじゃ、どの武器も強すぎて扱えそうにない」


「そうだね。マンセにやってもらうよ」


 再びソースイの長剣が、黒みを帯びてくるが刃だけが薄っすらと白くなる程度の変化で留める。


「ソースイ、もう一度。魔力の込めすぎには注意しろよ!」


 ソースイの魔力が黒剣に流れ始めが、すぐに魔力の流れは止まる。流れ込んだ魔力は、以前の2割程。


「まさか、これだけの魔力で以前と同じ効果が発動するなんて···」


 魔力量の少ないソースイにとっては、願ってもない力に打ち震えている。


『それならば、カショウの長剣はどうなのかしら?』


 それは、最後にガチノキシダーンから受け取った長剣で、ムーアが影の中から持ち出してくる。ダンジョンから見つかった武器が、アシスでも大きな力を示すならば、俺が受け取った長剣はさらに大きな力を秘めているはず。


 しかし影の中から取り出した長剣には、ガチノキシダーンから受け取ったときの重量感はない。


「マジックソードと変わらないな」


『でも、何かのスキルを持ってるんじゃない?』


 魔力を流してみるが、魔力を蓄積できる限界に達しているのか、魔力を流し込めない。それならば、魔力を消費する為に、マジックソードを振るう。

 ガチノキシダーンの斬撃を想定して、そっと振るうが何も起こらない。


『ただのマジックソードみたいね』


 他の武器·防具は新しい力を発揮するのに対して、この剣は力を弱めている。ムーアの言葉を素直に受け止めることが出来ずに、次は思いっきりマジックソードを振るう。それでも、何も起こらない。


 アシスの世界で力が制限されていたが、色を取り戻し力を解放された武器。それに対して、俺の長剣はアシスの世界に来て力が制限されている。


「これは、ただのマジックソードじゃない。俺が制御しなくても存在してくれる、消滅しないマジックソードなんだ!」


 強がってみるが落胆する気持ちは声に表れ、隠すことは出来ていないのは自分でも分かる···。

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