第370話.異世界との融合

 マジックボールに付与されたのはオネアミスの毒。薄紫に染まったマジックボールには、単純に毒としての影響を与えるだけでなく、もちろん爆発性物質としての性質も持ち合わせている。


 そして熱気を帯びた風を浴びることで、マジックボールの表面のオネアミスの毒が反応を始めると、徐々に凶暴さを露にする。俺が一つの塊であると意識しているからこそ形を変えずにいるが、普通であれば大きな爆発を引き起こしている。


「予想はしていたけど、想像以上だな」


 エンチャントされたこともあり、完全な性能ではなく俺の魔力の中に閉じ込められ、緩やかに反応を起こしている。それでも、徐々に連鎖して反応することは変わらず、内包しているエネルギーは変わらない。それどころか、より凝縮されたエネルギーとなっている。


 まだ飛散しないでいてくれるが、だが気を緩めれば···。


「ブロッサ、どうする?このままでイイのか?」


「色が消えるまで、限界まで我慢シテ」


 マジックボールの表面の色は薄くなっているが、内部の色はまだまだ濃い。しかし、今の状態でも弾けようする力は強く、俺が制御出来る限界は近い。


「そんなに、長くは持たないぞ!」


『仕方ないわね、私が手伝って上げるわよ。感謝しなさい』


 そう言うと、ムーアはオニの小太刀を翳すと、無詠唱のファイヤーボールを放つ。

 大きな魔法の力は必要なく、火種程度で十分。それよりも発動時間を優先させ、オネアミスの反応を促進する為のキッカケを与えれば済む。


 パチッ


 その小さな反応だけで、オネアミスの毒の急激な反応が加速する。一つの塊として集めていたマジックボールに亀裂が入ると、中からは光が漏れ出る。


「ミュラー、出番ヨ」


 ここで告げられるミュラーの出番。ブロッサから求められたのは、まさに盾となる役割。


 カショウの制御の限界を超えた、マジックボールは亀裂が入ると急激に制御を失い飛散する。魔力へと還るよりも早く、広範囲に渡って拡散する。触手の体を簡単に突き抜け、そして魔力へと変わる瞬間に衝撃波を放つ。


 ダークが使ったキャビティは極小の破壊を蓄積させるものだったが、今は同じとは思えないくらいに一つ一つの破壊が大きい。


 そして、その衝撃波は俺達にも等しく降り注ぎ、それに耐えなければならないが、全精力をマジックボールに注いだ為に展開しているマジックシールドもソードもない。


 それに抵抗する為の唯一の手段がミュラー。


 衝撃波で損傷しても、破壊の原因となったのは俺の魔力なのだから、その場で吸収し回復させることが出来る。破壊させては回復させるの繰り返しになるが、それでも次第にミュラーの盾は浸食される。削られれば削られる程に、より多くの衝撃波を受けてしまう。


 誰が見ても回復は間に合ってはおらず、次第に厚みを失ってゆく。


「ミュラー、大丈夫か?」


『大丈夫よ、邪魔な援護はいらないわね』


 しかし、ムーアはミュラーに念を押すように確認し、援護することを否定する。アースウォールなどで援護されれば、逆に俺の魔力吸収を阻害する可能性がある。


「でも、このままじゃ時間の問題!」


 マジックシールドの展開は間に合わないご、まだまだマジックボールの粒子は終わることなく降り注ぎ、ミュラーがジリ貧であることは変わらない。最悪の場合はミュラーの召喚を解除するしか助ける方法はないが、それでは誰かが盾になるしかない。


「余計な心配は不要。我のここからが力の見せ所よ!」


 影から出てくるのは、カチノキシダーンの青銅色の鎧。それをミュラーは吸収してしまう。

 理の違う異世界の金属。自然に形を回復する不思議な金属を取り込むことは、異物を体内に取り込むことでしかなく、どのような拒絶反応を起こすか分からない。


「待て、それはリスクが高過ぎる。何が起こるか分からない!」


「カショウ様が異世界の存在であるならば、我は異世界に取り込まれた魔力を吸収した存在。今さら何の問題がありましょうか!」


 ミュラーの盾にマーブル模様が描かれる。吸収される度に、幾重にも描かれる模様。それは次第に、何かの紋様を描き出すと青白い光を放つ。

 マジックボールから放たれる光よりも、強く輝く光は強さを増し、全てを飲み込み見えなくする。ただ熱気は次第に収まり触手の気配は消えてしまう。


 そして、最下層であることを示すゲートが出現する。

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