第369話.ブロッサの秘策
「ワタシに考えがあルワ。オネアミスの毒を使ウ」
そう言うと、ブロッサは左手でスライムの魔毒を発現させながらも、右手に魔力を集め始める。
「もしかして、魔法でオネアミスの毒を···」
クオカの地下のワームが作り出した酸と、土が反応することで生じる毒。魔物が元となって作り出された毒ならば、ラノウベの世界でも通用する可能性は十分にある。
「少しだケネ。でも上位の毒を扱うのは難シイ」
ブロッサの声は重く、リスクを孕んでいる事が窺い知れる。単に上位の毒というだけでなく、爆発物としての驚異度は当然認知しているし、お試し感覚で気軽に扱えるようなものではない。それを一番熟知しているブロッサが、覚悟を持って使うと云うのであれば、俺はそれを信用するしかない。
「同時発動なんて出来るのか?」
同じ属性であっても、左手でスライムの魔毒、右手でオネアミスの毒を作り出すという技術は高等技術になる。
「スライムの魔毒は、止まるかもしれナイ。一時的にだケド」
それが可能でも、一番の問題なのはオネアミスの毒を触手に届けること。スライムの魔毒のように気化してしまえば全く一緒な結果になるが、それでもブロッサには何か考えがある。
『それで、私達は何をすればイイの?』
一番付き合いの長いムーアは、簡潔に何をすれば良いかだけを聞き、ブロッサが何を考えているかを聞こうとはしない。信頼関係もあるが、2つの魔法を同時に発動させようとしているブロッサにとって、そこまでの余裕は無い。
「マジックボールを作って、出来るだけ細かく細分化シテ。制御はしなくても大丈夫。後は、ワタシとミュラーの仕事ヨ」
ブロッサはそこまで話すると、後は目を閉じ魔法に集中する。これ以上の会話をするれば、魔法制御が乱れてしまう。
『任せて!』
それをムーアは最小限の言葉で了承するが、ミュラーは全く知らない。余り感情を出さないはずのミュラーからは、感じたことのない緊張感が伝わってくる。だがブロッサがここまで腹を括り、そしてミュラーを信頼しての行動であれば、それに対して応えるしかない。
『さあカショウ、行くわよ!』
「ああ、分かった。俺にも余裕は無くなる。後の判断はムーアに任せる」
そして俺もブロッサと同様に、自身の限界に挑戦を始める。出来るだけ細かくという注文なのだから、バーレッジよりも上程度ではいけない。しかも細分化した個々を操る必要がないのだから、それくらいの期待に応えなくては契約主として格好が悪い。
「マジックボール」
危険な状況下ではあるが懐かしい記憶が蘇る。無属性魔法の練習以来になるが、今のマジックボールは前とは大きく違う。手の平に乗る程の大きさだった玉は、今はボーリングの玉よりも一回り大きい。
「さあ、俺がどこまで成長したか見せてやる!」
単純に縦、横、斜めにするだけでなく、それと並行して何層にもなるように分割させる。細かくすればする程に、意識する物の数は増え、少しでもイメージが狂ってしまえば瞬時に魔力へと還る。
そしてラガートの黒翼が風を操り、マジックボールを触手に向かって動かす。
「ダーク兄さん、何をしているのですか?自由に動けるのは、兄さんだけでしょ!」
フォリーが影の中からダークに指示を出し、マジックボールを動かすことを命じると、ラガートをアシストしてマジックボールを触手へと動かす。それを触手もを黙って見ているわけはなく、マジックボールを排除しようと近付いてくる。
『ホーソンもチェンも、一応準備しておきなさい!』
ムーアが指示を出すが、その言葉には焦りはなく、万が一に備えた時の対応に過ぎない。
「信用しすぎじゃないか?」
『それくらいは、やってもらわないと。私の見る目が疑われるわよ!』
マジックボールを触手に飛ばす必要が無くなり、さらに細分化することだけに専念出来る環境をつくられたのだから、期待に応えるしかない。
遂にブロッサのオネアミスの魔毒が右手に発現する。ブロッサの言った通りに、一時的にスライムの魔毒の発現は止まってしまい、結界は大きく薄れる。それだけでなく、右手に発現したオネアミスの毒も消えてしまう。
そのタイミングで触手は攻撃を仕掛けてくるが、マジックボール触れた触手は瞬時に消滅する。
「エンチャント·ポイズン·オネアミス」
ブロッサの右手から消えたオネアミスの毒は、マジックボールに毒を付与されている。
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