第371話.ガチノキシダーン
ダンジョンの最下層の証明ともいえるゲートが見える。あれだけビッシリと敷き詰められていた触手は、欠片1つさえも見つからない。立ち込めていた熱気も魔力溜まりも、その痕跡を残すようなものは見つからず、ポツンと扉のないゲートだけが立っている。
廃れて枠組みだけが残されたゲートだが、このダンジョンに入った時と同じ形のゲートは、ダンジョンの出口であることで間違いない。
「表裏は無さそうだな」
ゲートは枠組みしかなく、扉も無く開け放たれたまま。どちらから中を覗きこんでも、赤青緑の3原色が混ざり合って歪んだ世界。3つの色は複雑に絡み合うが、決して混ざり合うことはなく、それぞれの色を主張している。
『そうね、壊れる前にさっさと出ましょうか?』
「不吉なことを言うなよ。そんなことを言うと、本当に出れなくなるぞ!」
“上”
ムーアと俺が不吉な会話をしていると、頭上から近付いてくる気配をクオンが探知する。しかし、見上げても暗闇が広がるだけで、上には何も見えない。
「クオン、何が聞こえる?」
“羽ばたく音、魔物”
音のある状況下では、クオンの聴覚が真っ先に反応し、次に視覚、魔力の順となる。クオンが探知したのは羽ばたく音で、鼓動の音は聞こえない。だからこそ、近付くのは魔物だと断定出来る。
その間にもリッター達が展開して、クオンの示した方向の索敵を行う。
「カショウ、見付けたよ!」
リッター達の光が一斉に照らし出す先には、白い点が見える。小さい点でしか見えないが、だからこそ触手とは違うといえる。
『貴方の属性では無いようね。セージが心配していた、キシダーンかしら?』
「別に俺だって、触手と似た姿じゃないだろ!」
『そうね、触手の上位種はヒト型だったわね』
まだ姿形はハッキリと見えないが、急速に近付いてくる魔物。そして、感じられる強い魔力が無駄話を終わらせる。
膨大な空間の岩壁の魔力が集まり、ポップアップした存在。その割には、姿は小さくまとまっている。
「このまま、ここで魔物を待つ必要もないよな。退散する選択肢もある」
『でも、これが求めていた“地の力”かもしれないわよ』
サージの残したメッセージの“地の力”。このダンジョンで手にいれたのは、セージとガチノキシダーンの残骸。どちらもが、“地の力”だとは言いきれない。
『クロカミセージョに抱きつかれて満足したかしら?』
「問題は、またここに戻って来れるかだろ」
ダンジョンから出てしまえば、また振り出しに戻るのかもしれない。それに、またここに戻って来られる確証なんてどこにもない。
その間にも次第に白い点だった姿が、ハッキリと見えてくる。リッター達の光を浴びずとも白く輝く姿は、カチノキシダーンに似ているが、白金に輝くプレートメイルに長剣。そして、極めつけは白い翼。
俺達の持っているものとは真逆を行き、ここまで白く染まると嫌味にしか感じない。
「白すぎて気味が悪い。下品だしセンスも無い」
『あらあら、あちらも嫌ってるみたいね。お互いに通ずるものがあるのかしら』
白いキシダーンは剣を抜き放ち、俺達を敵として認定している。まだ距離は離れているが、その剣を振るう。
“来る”
「まさかっ」
クオンが感じるということは、音がするということでもあり、間違いなく空間を切り裂いて斬撃が飛んでくる。
ガンッ
頭上に展開したマジックシールドと斬撃がぶつかり合うと、鈍い音が響く。斬撃は消滅しマジックシールドは無傷のまま。
だがそれは、ゴブリンロードのレンの攻撃と似ている。黒づくめのゴブリンロードに対して、白づくめのキシダーン。
『どうするの?』
「大丈夫ですわ」
しかし、ムーアの問いに答えたのはセージ。両手には大事そうに、ゴブリンキングの王冠を抱えて影から出てくる。
「ガチノキシダーン。あなたは、誰に向かって剣を向けるのですか?」
白づくめのキシダーンは、ガチノキシダーン。明らかに上位種といえる存在だが、セージは恐れることなくゴブリンキングの王冠を掲げ、ガチノキシダーンに王冠を見せつける。
「セージ、何が起こるんだ?」
ガチノキシダーンの魔力が乱れ、そして動きが鈍る。白く輝く翼から消滅が始まり、飛行から落下へと変わる。そして、落下するのは白金の長剣とプレートメイルをゴブリンキングの王冠が引き寄せる。
俺の前に差し出されるように引き寄せられた、白金の長剣とプレートメイル。
「これを、俺に?」
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1/4~9までは改稿期間として休載します。
再開は1/10より再開します。
それまでは、閑話の方の投稿となります。
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