第367話.再下降

 ブロッサが放つポイズンボムは、待ち構える触手を簡単に消滅させてゆく。下降しながら放たなければならない魔法の中で、拡散しやすいブレスやミストは使い難く、広範囲に影響を与えることは出来ない。

 それをエンチャント·ポイズンで魔毒を帯びた武器の攻撃で対処してゆく。触手に掠り傷を与えるだけでも効果があり、エンチャント·ポイズンは紫紺の刀にも付与されている。


 だが、進むに連れ次第に熱気が増し、放たれたポイズンボムも気化してミストへと変わり拡散してしまう。


「マズいな!」


 この場で留まり戦うには問題ないが、目指すのはこの空間の底。まだまだ下で待ち構えてる触手が多いにも関わらず、気化した魔毒は下に落ちることなく、上昇気流に乗って逆流を始める。


 先に進むためには、気化し漂うスライムの魔毒の中を突き破り、熱風に対抗しなければならない。


「大丈夫ヨ。私達にはスライムの魔毒は効かなイワ」


「それは嬉しいんだけど、 この気流が邪魔をするだろ」


 少しでも早く底へと辿り着きたいのに、上昇気流は下降する速度を落としてしまう。理の違う世界であるのにも関わらず、こんな時ばかり俺達の邪魔して働く物理法則が忌々しく思える。


 熱気が増す度に、さらに魔毒のミストは拡散されて漂うミストは薄くなる。しかし、スライムの魔毒がミスト化し、かつ物理法則が同じであるならば、実力を遺憾無く発揮する精霊がいる。


 霧の精霊シナジー。俺の周りに滞留する魔力制御の役割を担っているが、本来の精霊としての力を発揮しだす。


 霧の精霊の力は、相反する火属性と水属性の力の拮抗で生じる特殊な精霊でもある。気温をコントロールして、拡散したミストを再構築して、俺達を包み込むような魔毒の壁をつくる。


「流石だな。スキルの熟練度はシナジーが一番だろ。サボりがちな精霊とは違う」


『あらそう、でもシナジーの適正を見つけたのは私よ。だからこそシナジーの熟練度も上がっているわけね!』


「それじゃあ、この後はどう対処するんだ?」


 しかし、まだまだ温度は上がり続けている。当然上昇する温度と共に、少しずつ魔毒ミストの壁も拡散を始め、その証として色を失い始める。多生の温度のコントロールが出来ても、シナジーの能力以上の温度変化であれば、ミスト化の状態を保つことは出来ない。


『まだ大丈夫よ。シナジーは諦めてないでしょ!』


「諦めるもなにも、どこでそれが分かるんだ?」


 俺の言葉でケモ耳エルフの姿が現れると、俺に向かって何故か出来損ないウインクをしてくる。何処でそれを覚えたかは分からないが、まだ余裕を残しているのは良く分かる。


 そして俺達の周りに冷気が立ち込める。


「タダノカマセイレか?」


 上がりきった熱気であれば下げてやればイイ。単純で簡単なことではあるが、理の違うラノウベで影響を及ぼすには、いつもの倍以上の力を示さなければならない。


「ヴヴヴヴヴヴアアアァァァーーーッン!」


 絶叫にも聞こえるタダノカマセイレの鳴き声が響き、哀しみの世界が解放される。理想の姿を手に入れたことで、哀しみの力が落ちるかと思っていたが、依然として凍てつく哀しみの世界の力は強い。そして今は、暴走しコントロールが出来ない力ではなく、俺達の周りに限定し十分に制御をされた力。精神精霊としても、以前よりも進化した力を示す。


 解放された凍てつく冷気は、上がりきった温度を急激に下げシナジーのミスト制御をアシストすると、再び魔毒ミストの壁は色を取り戻す。


「後は、邪魔な上昇気流だけか」


「カショウ様、それならば私の出番のようですね。上昇気流以上の加速をご覧にいれましょう」


 ソースイが主張する時は、嫌な予感がする。召喚ハンソが関係しない、ソースイ自身のスキルの見せ場でもあり、最も効果的なのは分かる。ただ、やり過ぎてしまうだけ···。


 そして黒剣を構えソースイは、俺の指示を待っている。


「少しずつだぞ!最初から全開はダメだからな!」


「グラビティ」


 ソースイの了承した返事は、魔法の発動となって返ってくる。アシスの理の力は弱いが理は必ず発現する。そして、上昇気流の抵抗を打ち破るには十分過ぎる程の加速を生じさせる。


 そして何故か毒を全身纏った俺が先頭となり、待ち構える触手の中へと突撃させられてゆく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る