第368話.最終形態
ソースイのグラビティが、上昇気流や空気抵抗を打ち破り、徐々に俺達を加速させる。もちろん俺を先頭にして···。
そして何故か、スライムの魔毒で作った結界は俺だけを包み込んでくれない。全身がエンチャント·ポイズンでコーティングされ触手に対抗出来るとはいえ、攻撃さればそれなりに衝撃はある。
マジックソードで触手を切り払い、黒翼の剣羽根を飛ばす。マジックシールドは防ぐだけでなく、時にはバーレッジで吹き飛ばす。ナルキのアモンの実も、至近距離であれば効果がある。
俺と俺の体に宿る精霊や魔物は必死の抵抗をみせるが、それ以外で俺をサポートしてくれるのは、ダークの紫紺の刀とミュラーの金属盾だけ。
「何してる、ブロッサがエンチャントしただろ」
「あっしは、遠距離攻撃が出来ないですぜっ」
「私も黒槍が届く範囲だけですね。弓の方も、矢は魔法製なので役に立ちません!」
そう言いながらも、ホーソンとチェンは結界近くには寄ってすらこない。あくまでも、触手には魔毒の結界で対応するつもりでいる。
『アシスの魔法は効かないのだから仕方ないわ。それに、触手はカショウを狙ってくるのだから仕方ないでしょ』
「それでも、支援魔法くらい出来るだろ!」
『はいはい、分かってますよ。さっきから士気高揚は、もうやってますーっ!』
「せめて、詠唱くらいしてもイイだろ。無詠唱より効果が高いんだから!」
『だって、折角あなたが目立ってるのに、詠唱なんかして邪魔したら気が散っちゃうでしょ。無属性が活躍する場なんて限られてるんだから!』
単に気味の悪い触手に触れたくないだけのような気もするが、触手の猛攻は次第に苛烈さを増し防戦一方になれば、そこまで考える余裕はなくなってくる。
さらに輪をかけるように、状況は悪くなる。突然、リッター達の光が消え、辺りは暗闇に包まれる。
「何があった?」
リッターの光はあるが、照らし出すものは何もない。しかし、俺の気配探知スキルは依然として触手の存在を捉えている。それどころか、触手の数は増えいるにも関わらず、視覚では姿を捉えることが出来ない。
ただ暗闇が広がる。
『リッターの光も、アシスの理の1つよ』
「それって、光さえも無効化してしまうのか?」
『そうよ。これがその証拠よ』
徐にムーアにオニの小太刀を構える。普段の魔法とは異なり、いつも以上に魔力を込めると無数の小さな風の刃が現れる。
『朔風』
一面に広がる風の刃。しかし、一つ一つはウィンドカッターと比べても遥かに小さく、とても触手に通用するとは思えない。
音もせず簡単に無効化される、ムーアの朔風。しかし、無効化された時に放つ青白い光が、一瞬だけ触手の様子を露にする。もう触手同士の間隔はなく、隙間さえ見えない。目の細かい絨毯にしか見えず、この状態ならば光が通り抜ける隙間もなく、全てが無効化されている。
光のない空間で触手相手に渡り合えるのは、もう気配探知出来る俺しか居ない。
「これが、最終形態か···」
『これ以上はないでしょう。1つにまとまってくれれば簡単だけど、そんな愚かなことはしないでしょ』
微かな願望を先にムーアに打ち砕かれる。この数の触手を相手にするには、俺だけでは手数が足りないし、対処出来たとしても時間がかかり過ぎる。
どうやって対抗する?触手に効果があるのは、魔毒と剣羽根、そして俺の無属性魔法。
しかし、触手から立ち上る熱気はブロッサの作り出す魔毒を気化さるだけでなく、上昇気流が押し戻してしまう。ラガートの剣羽根も同じで、元が羽根であるだけに熱には強くない。
その点、俺の無属性魔法は熱には強い。熟練度が上がるにつれて、外力から耐える硬さだけでなく、それぞれの結び付きも強固になり、破壊することは難しくなっている。欠点であった軽さも、バズの石化の瞳が解決してくれる。
ただ、まだ広範囲攻撃にはほど遠い。もっとバーレッジを細分化し、そして遠くまで制御するには修練が必要。
もっと細かく、もっと遠くまで。だが、今はやるしかない!
「バーレッジ」
しかし、バーレッジは弾幕とはならずに、粉を撒き散らしたようにして消えてしまう。細分化までは出来ても、それぞれを制御し拡散させるには熟練度は足りない。魔法の基本は想像と言っても、思い付きで出来る簡単なものではない。
「ワタシに考えがあルワ」
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