第365話.毒属性

 コールの翼を纏ったブロッサの魔力に、特に異常はみられない。ブレスレットの中であれば、光と陰の精霊が共存する。ヴァンパイアの弱点である光があっても、俺の無属性の魔力が緩衝材となることで、共存出来る環境がある。

 しかし今は、共存というレベルの話ではない。精霊と魔物が直接繋がるのだから、俺の魔力が緩衝材とはなり得ないし、コールの翼を纏えた精霊はブロッサだけで他の精霊には不可能だった。


「もしかして、ブロッサは魔物?」


『そんな訳ないでしょ!ブロッサ、出番よ』


 ムーアは強制的に話を切り上げると、ブロッサの作り出すスライムの魔毒の話に変えてしまう。ブロッサの右手には魔力が集まると、徐々に毒のボールが浮き出してくる。嗅覚スキルで感じ取る臭いは、コールの魔毒と全く同じ。


 もちろんコールはアシスの世界に居た魔物なのだから、スキルに魔力を流して魔毒を作り出していることに変わらない。それはゴブリンや他の魔物も同じで、特に四属性の魔法は精霊でも魔物でも関係なく扱える一般的な魔法。だからブロッサが、スライムの魔毒を再現することに不思議はない。


「ポイズンボム」


 そして触手に向けて放ったスライムの魔毒は、止めの一撃となり変色しただけの触手を消滅させる。それは、新しく生まれてきた触手も同じで、迫るり来るポイズンボムの勢いを削ぐことは出来ても、毒自体を弱体化させることは出来ていない。


 俺の魔法は尽く駄目で、ブロッサが作り出した魔物の毒は効果がある。


「両方ともアシスの魔法だよな。何が違うんだよ?」


 もう一度だけウィンドトルネードを放ってみる。一番熟練度が高い属性の魔法に、制御出来る限界の魔力を込める。同じ触手だからといって、全てが同じ個性ではない。新しく生まれた触手ならば、少しは違う変化があるかもしれない。


 パチッ


 しかし、俺の放った魔法は青白い火花を散らして簡単に無効化される。あまりにも、簡単過ぎるくらいに無効化され、先に相手した触手よりもむしろ悪くすら感じる。触手は小さな虫を払い除ける程度で、触手の先端に集まった魔力は小さい。下位魔法を行使出来るかどうかの魔力しか集めていないのに、俺の中位魔法は瞬殺される。


『もっと悪くなったかしら?』


「魔力を込めれば込める程に、効かなくなってるかもしれない」


「恐らく私の無属性のせイヨ」


 何気なく話したブロッサの言葉に戸惑ってしまう。毒の属性に、無属性が関係しているとは思っていなかった。それはムーアも同じであるようで、少し考え込んでいる。


「えっ、でも今のはポイズンボムだろ?」


「関係はあるノヨ。毒属性も八属性の組み合わせで、成り立っテル。その中でも毒属性には、無属性が少なからず含まれていルワ。毒の力は全てを無に還すことでもあるのだカラ」


 それが本当であるならば、無属性が関係している属性はラノウベの世界でも通用する。毒属性以外にも、無属性が関係しているものがあれば、十分に戦う手段となる。少しだけ見えた希望の光。


「無に還す力は、本当に無属性のものなのか?」


 だが簡単には信じられない。俺の無属性魔法は、魔力そのものを操る魔法であって、全てを消滅させ無に還すような力ならば、もっと扱いは良いはず。本当にそれは、無属性だと言えるのだろうかと疑問が残る。


「それは、確かヨ。どの属性にも当てはまらない感覚は、無属性でしかないわ。カショウがダンジョンを破壊したのを見て、私の中に眠っているのは、無属性だと確信しタワ」


 ブロッサは今までの分からなかった感覚が、俺の力を目の当たりにしたことで理解する。それは進化し、自身の力をより強く感じ取れるようになったことも影響している。


「他には、無属性と関係のある精霊は···」


『カショウ、残念だけど無属性が関係している精霊は、ここには居ないわ。そうじゃなくても、無属性が関係している精霊は少ない。少なくても、私は聞いたことがないわ』


 それは、ブロッサもガーラも肯定して頷く。それぞれが持つ属性は、八属性に触れた時に分かる。火属性に触れて力が増せば、火属性の影響が強い。逆に力が弱まれば、水属性の影響が強い。

 しかし無属性に関しては、触れても影響を及ぼさない。基本が無であるのだから、ほぼ分からないと言えるだろう。


「そうだったな、レア属性だったな···」


「心配しなくても大丈夫、方法があルワ」

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