第361話.魔力の色

 左手の甲の瞳が紅く煌めくと、何となくではあるがバズの瞳を触手に向ける。バズの力は完全に戻ってないし、石化の瞳が触手に通用するかは分からない。他の魔法と同様に、青白い火花を散らせてスキルが破壊されてしまうだけの結果になるかもしれない。

 それでも少しは手間を掛けさせてやろうと思った、嫌がらせに近い攻撃でしかなかった。


 俺に向けて一直線に加速した触手の動きが鈍る。石化の瞳の効果は破壊されることなく触手に届いている。完全に力を取り戻していないバズだが、それでも触手の動きは鈍くなり、俺に到達出来ない程に動きが減速される。


 そして十分な余裕を残して、ナルキの持つマジックソードが触手の胴体を捉える。


 触手に触れ、抵抗はある。しかし、その抵抗に弾かれることなくマジックソードは振り抜かれる。粘土をヘラで押し切るような感触に近いが、それでも触手の胴体を分断した事は変わらない。その証明として切り離された触手は消滅を始めるが、今回は切り離された触手だけでない。本体である方も存在を維持できずに消滅を始め、魔力溜まりも再び岩壁の中に吸収されてしまう。


「俺のマジックソードもバズの石化の瞳も通用する。ナルキの攻撃も、通用しそうだな」


「カショウ、ボクの攻撃は通用していないんだよ」


「でも、触手に届いていただろ。それならば、やりようがあるんじゃないか?もっと衝撃を与えれば、ダミアの実は破裂してくれる。それがダミアの実の真価だろ」


「それなんだけど、弾かれたのはダミアの実だけなんだよ」


 ナルキは少し悔しさを滲ませている。アシスでは最も固い実でもある。しかし、ダミアの実だけが破壊させられて、アモンの実はすり抜ける。触手に届くまでには失速してしまったが、その意味は大きい。

 何の違いかは分からない。アモンの実にはあって、ダミアの実にはないものが、この先に必要な力であることの手掛かりになる。


「ボクにも分からない。僕たちは1つに融合しているんだ。それぞれに個性があっても、そこまでかけ離れた違いがあるとは思えない」


『難しく考えすぎよ。カショウがダンジョンを破壊してしまった後に、残されているのはラノウベの世界よ』


 俺がやってはいけない事をしたような言い方をするムーアだが、マジックソードの一撃が崩壊を招いただけに強く否定出来ない。それにムーアは自信があるようで、意味深な笑みを浮かべている。


『だからラノウベの力には、ラノウベの力で対抗するしかないのよ』


「ラノウベの力と、アモンの実に何が関係しているんだ?アモンの実は、間違いなくアシスの世界のものだろ。もしかして···」


 あまりのムーアの自信に、アモンにも隠された秘密があるのではないかと疑ってしまう。俺がリンゴクオージの力を持っているとするなら、アモンがラノウベの植物ではないと判断するのは時期尚早で、十分に可能性は残されている。


『ふふんっ。カショウ、私がそんな馬鹿な推理をするとでも思ってるの?』


 俺の感情の声を聞いたムーアは、今度は冷笑を浮かべる。俺が何を考えたかを声に出さないのは、ムーアの優しさではなく弱みを握られた感覚に近い。


 もう不要な思考はせずに、簡潔に最小限の言葉をムーアに返す。


「じゃあ、何なんだ?」


『あら、面白くないわね。でもまあ、イイわ。思い出してみなさい、アモンはレーシーに寄生されていたのよ』


「レーシーの···魔物の力が、アモンに流れているのか?」


『そこまでの強い力は残されていないわ。でも触手にとっては、知られたくない秘密なのよ』


 ムーアの推測が正しければ、それはアシスの魔物はラノウベの世界の住人で、そこから溢れ出た魔物ということになる。バズ以外の魔物の力も通用すれば、そのことの証明にもなるかもしれない。ただそれは推測でしかなく、説明出来ないことも多い。


「それならば、どうして触手は俺だけを狙ってくる。アシスの世界の魔物なら、皆が襲われるはずだろ」


『違うわよ、カショウに吸収されようとしたのでしょ。あなたの魔力は青い色をしている。そして、この触手の魔力も青い色をしているわ』


 俺の魔力を凝縮して造り出したマジックソードは、薄っすらと青い色をしている。そして触手に攻撃した時に発生した青白い火花も、魔法を消滅させる為に発生させた凝縮した魔力。


「俺と、触手は一緒なのか···」

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