第362話.それぞれの違い

 ムーアが指摘したのは、俺と触手の魔力の色。アシスとラノウベで理が違えども魔力は共通し、違うのは呼び名だけでしかない。そしてアシスの世界ではスキル、ラノウベの世界ではスタアに取り込まれると、その属性の力を発揮する。

 ただそこで、魔力の質に変化に生まれる。無職透明であった魔力は、スキルやスタアに取り込まれることで、様々な属性の影響を受けて、魔力自体に色を帯びる。


「俺と触手も同じ色をしているなんて···」


 アシスの世界の無属性は、魔力そのものを扱う力。ラノウベの世界のリンゴクオージ属性は、魔石に影響を与える力。異なる世界の力であって、共通するという点は少ない。全く違う理で成り立つ世界にあれば、同じ色という概念でも、その中身は全くの異質のものであるといえる。


 しかし、リンゴクオージと触手が同じ属性であるといえば、それは誰が見ても明らかに分かる共通した特性。異なる属性であると、否定することは出来ない。


 ただ触手を見て、俺と同じ存在だとは認めたくない気持ちは強く生じる。


『そう思わない?』


「触手の進化した姿が俺なのか?でも、俺には元の世界の記憶だってある」


『でも、完全ではないのでしょう!』


「じゃあ、俺は一体何者なんだ?」


 体の構造はヒト族であり、精霊とも魔物とも違う。しかし、魔物の体をしたクロカミセージョは、俺の事をリンゴクオージと呼ぶ。そして、リンゴクオージはラノウベの理の1つを司る存在でもあるならば、ラノウベは魔物によって支配された世界なのだろうか?


『カショウ、ここで幾ら考えても答えなんて出ないわよ。サージもそう言ったのでしょ。ここで、求めているものは違うのよ』


 俺の答えの出ない、思考のループをムーアが止めてくれる。


 さらに力を欲するならば地に潜り、さらに理を欲するならば天に向かえ。


 それがサージの残滓の言葉でもあり、俺達がここに必要としてきたものは、“理”ではなく“力”!


「ああ、そうだったな。求めていたもの違う」


『でも少しだけ、あなたの勘違いを訂正しておくわ』


 ムーアが指摘するのは、それぞれの存在や進化の違い。


 アシスという世界で最初に創造神が創ったのは、様々な生物であるという事。そして原初の精霊がアシスという世界に魔力を満たすことで、原初の精霊以外の数多の精霊達が生み出された。

 あくまでも、最初に誕生したのはアシスで生きる生物であって、数多の精霊達は後から生み出された存在になる。


「精霊は、姿を具現化する時には、理想とするアシスの生物の姿を思い浮かべて願うのよ」


「ヒトの姿は、ヒト族を願った姿なのか?」


『そうよ!』


 毒の精霊であるブロッサは数多ある生物の中から、最初は蛙という存在を選んだ。今の進化した姿は、ヒト族の姿を願ったものになる。イッショも進化する過程の中でも、今の豆柴の姿は願った姿になる。そう考えれば必ずしも、精霊がスキルや魔法の力を与え、一方的に尊ぶべき存在ではない。


「魔力体である精霊が欲する姿が、アシスの生物の姿でもあるのよ。だから上位精霊に進化した者には、幾つもの生物の姿を体に宿した姿が多くなるのよ」


「魔樹の森のキマイラのようにか?」


『そうね、キマイラもその代表の一つね。でも必ずしも、上位精霊が複合した姿であるという訳ではないわ。それでも、真似した姿なのは変わらないわ。原初の精霊と最上位の精霊以外の話だけどね』


「じゃあ、魔物の進化はどうなる?」


『魔物の進化は、あなたも見ているでしょ。魔物の進化は、大きく形態を変えるとこはないけど、他のどの生物にも当てはまらない独自の姿を、自ら生み出すのよ』


「精霊も複雑だな?」


『精霊だって大変なのよ♪』


 生物には寿命があり、その中でもヒト族の寿命は長くない。しかし、ヒト族という存在自体は、寿命という概念がない精霊よりも、古くから存在している。その存在自体が精霊が求めている姿であれば、必ずしも力を与えられるだけの関係ではなくなる。さらには精霊の姿は真似をした姿であり、魔物ような独創性はない。


 所詮迷い人の俺には、まだまだアシスの知識は少ない。だから少しの知識だけでも、見方や考え方が大きく変わってしまう。


「まだ全てを解き明かすものは揃っていない。それでも俺はここでは上位種の存在に違いない」

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