第350話.崩壊
ポロポロと石壁が崩れ出すと、壁の上部にあった灯りも消えてしまう。マジックソードには、ズシリと重みがのし掛かり、深く刺さった分だけ大きな抵抗を受けて、簡単に引き抜くことは出来そうにない。
さらに壁に広がったヒビ割れは大きく広がり、天井や床にまで伸びると、天井からはパラパラと石の破片が降ってくる。しかし、それは下に落ちきる前に消滅してしまい、堆積することはない。
『消滅しているってことは、ただの石とは違うってことよね。まあ、生き埋めになることはなさそうだからイイけど』
「そうだな、消える石って魔石···みたいだな」
俺とムーアの目が合うと、しばらく沈黙が流れる。
『はあっ、そういうことなの。もうっ、どうするのよ』
ため息をついた割には、ムーアの視線は鋭く俺に突き刺さる。
「本当に魔石なのか···ダンジョン全体が?それは、流石にないだろ」
『あなたが何をしたのか考えれば、自と答えは一つしかないでしょ』
俺の無属性の力でも、破壊に特化しているのは魔石を砕くことでしかない。それに、特別大きな力を行使していないのに、軽くマジックソードを壁に突き立てただけの攻撃。それでダンジョンには大きな破壊が起こったのだから、ダンジョンが魔石で出来ていると考えるのに矛盾はない。
「ダンジョン全体が、巨大な魔石だなんて。ダンジョンは、どれだけバカでかい魔物になるんだよ。それに、俺のマジックソードが魔石破壊に特化していても、簡単にこんな破壊が起こせるのか?」
『リンゴクオージの力でしょ。今のあなたでも、上位種の魔石を簡単に砕くんだから、セージのハートを吸収して強化されたなら、もっと出来るのも納得でしょ』
リンゴクオージの力に一番詳しいセージは、未だにデレ状態で役に立ちそうにない。
『どうするの、まだ突き刺したままにしておくの?』
終わりの見えないダンジョンに、新しい変化を望みはしたが、こんな急激な変化は望んでいない。このままマジックソードを突き刺した状態にはしておけず、引き抜くために力を込める。
ゴゴゴゴオォォォォーーーーーッ
その瞬間、ダンジョン全体から響く大きな地鳴りの音は、ダンジョンの大きな崩壊を予感させる。マジックソードを引き抜こうとしたせいなのか、それとも力を込めたことの影響なのか、はたまた全く関係ないのかさえも判断出来ない。
「離れて下さいっ!」
そこで初めてセージの声が響く。ダンジョンの崩壊を告げる音で、セージは正気に戻ったのかデレ状態からは抜け出している。そしてお嬢様言葉ではない切羽詰まった言葉に、慌ててマジックソードから離れる。
「メシテーロ」
付き出したセージの両手から放たれる、緋色の波動のような魔法。それが壁に触れると、ヒビ割れをなぞるように伝播してゆく。広がるヒビ割れは止まり、天井から降り注いでいた石の破片も止む。
「少しの間は持ちこたえれます。今の内に、ここを離れましょう」
クロカミセージョは俺の力を強化してくれたが、本来の力は魔石を癒すことなのかもしれない。しかし、リンゴクオージとクロカミセージョではランクに大きな違いがあり過ぎる。
離れましょうと言ったセージだが、魔法を放ち続けなければ、ヒビ割れは広がり再び崩壊が始まる。あくまでも現状維持するだけで、回復させるまでには至っていない。
今は集中力を乱さないように、ゆっくりと時間をかけながら後退りするしかない。せめて俺に完全に吸収されている状態ならば、俺の無限ともいえる魔力が供給される。しかし今は、ダイニオージとの戦いで消耗した魔力も回復しきっていないし、長くは魔法を行使出来ないだろう。
セージの魔力が限界に達した時は、全力で逃げにかかるしかない。どこまで崩壊してしまうか分からないが、消滅すれば生き埋めになることはないし、翼があれば崩落に巻き込まれることもない。
最悪の場合を想像し覚悟を決めると同時に、ダンジョンの灯りが消え辺りは暗闇一色に包まれる。
「カショウ、ダンジョンの奥の灯りも見えなくなったよ。どうする?かなり影響は大きそうだよ」
ナレッジが、消えた灯りの代わりにリッター達に指示を出す。純粋な灯りとしての役割もあるが、索敵も担うリッター達の目には、長く延びる通路の奥の灯りも確認出来ない。
『暗くなっただけならイイけどね?』
「それ以上は言わない方がイイらしいぞ」
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