第349話.無限ループ

 セージは、しばらく使い物になりそうにない。気の強いお嬢様かと思ったが、今は完全にデレ状態で、動きや行動もおかしくなっている。


 完全にセージを吸収して、俺の体内へと吸収してしまえばラガート達と同じ扱いとなり、存在がバレるというリスクも無くなる。しかし、見た目は俺と同じ黒目·黒髪のヒト族というだけでなく、ここまでデレてしまっているセージを見てしまうと、ハートを破壊するという非常な判断をすることは俺にとっては難しい。


「旦那様、私はこうなると思っておりました」


 そこで、コアとセージが契約を結んだ理由を知る。俺ではなくコアが危険だと判断すれば、セージに制約が襲いかかる。俺の判断が、甘くて遅れるのは自身でも分かる。


「助かるよ、コア。でも、俺に虫が付かないようにするって、セージに何をさせるつもりなんだ?」


「そのままの意味ですよ。セージが居ることで、旦那様に近付こうとする不埒者を防げます。私は常に表に出られませんし、やはり一人は傍に控えておりませんと安心出来ません。いずれかは必要な存在と考えておりましたが、旦那様と運命共同体のセージならば適任ですわ」


「まずはダンジョンを出るまでには、セージに慣れて貰わないと、使い物にならないけどな」




 ダンジョンを出ると簡単に言ってはみたが、少し考えが甘かったと後悔が始まっている。石畳や石壁で整備され灯りのある空間で、チュートリアルダンジョンだと思っていた。多少遠い場所に転移させられたとしても、時間が解決してくれる。

 しかし、幾ら進んでも終わりは見えない。似たような道を延々とループする感覚で、クオンの聴覚をもってしても、終わりや行き止まりとなる場所は見つからない。俺達の足音だけが、ダンジョンの中に響き渡っている。

 最下層に辿り着かなければダンジョンから脱出できないが、今のところ下へ向かう気配も一切ない。


「ダンジョン脱出記録の最長は、3日なんだよな。3日歩いたら、出口に辿り着くと思うか?」


『記録更新するかもしれないわね。トーヤの街でカショウの名前が残るかもしれないわよ』


「そんなところで、名前を残して目立ちたくはないな」


 精霊樹の杖を構えて、魔力を込める。


「ストーンキャノン」


 終わりの見えないダンジョンに、少し八つ当たり気味に魔法を放ってみる。床や壁に触れれるのだから、少なからず魔法の影響を与えることは出来るはず。

 石の礫でなく、岩の塊。それがダンジョンの壁に当たって粉々に砕ける。衝撃音もあり振動も伝わってくるし、手応えはある。


 しかし飛散した岩の後には、無傷の壁が現れる。


『そんな、簡単じゃなかったわね』


 ダンジョンを破壊して近道出来るならば、誰だって壁や床に穴を開けている。それでも、タイコの湖のダンジョンのように結界が邪魔をしないのだから、破壊出来る可能性は少なくない。


「壁には当たっているんだ。それなら俺の魔法よりも、フォリーの方が適任かもしれない」


 日の光のないダンジョンならば、フォリーの力を最大限に発揮出来る。そして、形あるものを塵にしてしまうフォリーのシェイドは、うってつけの魔法になる。


 俺が呼ばなくても影から出てきたフォリーは、黙って俺の横に控えている。閉鎖された影の中よりも、ダンジョンといえども外に出た方が気持ちいいと思うが、フォリーの表情は変化を見せない。そして俺の視線に頷くと、壁に向かって襲いかかる。


「シェイドーーーッ」


 若干加減はしているが、それでも十分な威力のある魔法がダンジョンの壁に襲いかかると、塵が舞い上がり壁を隠す。


「残念ですが、効果は薄いようです」


 フォリーの全力の魔法ではないが、壁の表面の埃を払った程度での効果しかない。手加減をしていない魔法で全く効果がないならば、全力で試してみても大差はないだろう。


『やっぱりダメみたいね』


「ラノウベの力でも難しいだろうな···」


 閉鎖されたダンジョンの中で、ダイニオージがアクヤクレージョーを放ってもダンジョンに影響は無かったのだから、セージのハイスペックシュジンコーでは歯が立たない。


「無属性魔法は効果があるのかもしれないが、物理攻撃じゃな」


 投げやりにマジックソードを壁に突き立てると、今までの攻撃が嘘であったかのように、マジックソードは壁へと飲み込まれる。抵抗を受けた感触もなく、突き立てた壁には蜘蛛の巣のような無数の亀裂が走る。


「これは···マズい」

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