第348話.ほぼヒト族
最初の俺の意思は、クロカミセージョを助けることだった。クロカミセージョを助けることに、確定したメリットがあるわけではない。助けることに対して余裕があったわけではなく、未知のダイニオージやアクヤクレージョーのリスクは大きかった。
幾つもの不安要素がありつつも、それを加味した上でクロカミセージョ助ける判断をしたのだから、俺の意思は強い。だからこそ、クオンとコアはそれを実現させる為に行動したに過ぎない。
「だけどな、ラノウベの世界の理は、アシスの世界に何を引き起こすか分からない。クロカミセージョは、ダンジョンの外に出られないかもしれないんだぞ」
『ダンジョンの外に出ても問題がなければ、あなたはアシスの世界に連れて行くのでしょ!』
ムーアには疑問形ではなく、ハッキリと断定して言い切ってしまう。俺の中には迷いや葛藤はあるが、心の奥底ではそう願っている。それは感情の声が聞こえるムーアだけでなく、夫婦の契りを結んでいるコアにも見透かされている。
「問題がないなら、そうするだろうな。それは否定出来ない」
『心配しなくても大丈夫よ。でもね、1つだけ問題があるのよ♪』
問題と言いながら、ムーアの楽しむような笑みに嫌な予感しかしない。でも、今回はそれから避けては通ることは出来そうになく、ムーアに続きを促す。
「どんな問題なんだ?」
『もうクロカミセージョじゃないでしょ。コアが付けた名があるのだから、ちゃんと名で呼んであげないと可哀想よ♪』
「ああ、セージだったな」
それくらいでムーアの好奇心は満足されるのかと思ったが、俺に名を呼ばれるとセージの顔は真っ赤になり、急にモジモジし始める。俺に抱きついてきた人物とは思えないが、後で分かった話では気付けの酒の影響が大きかったようだ。
『ほらね、このままだと使い物にならないわよ。ダンジョンの外に出るまでには、責任持って慣らしておくことね』
「そうですね。これは旦那様の協力がなければ、セージもどうしようもありませんわ」
ムーアとコアの視線が俺に向く。ムーアは笑みを浮かべているが、コアの眼差しは真剣そのもので、対照的な表情を見せる。ただダンジョンの外に出るという事は、2人に共通している。
「ダンジョンから出ても大丈夫なのか?」
ダンジョンの最下層に辿り着けば外に出られるという事は、それは最下層から地上へと転移することになる。一度転移が始まれば、途中で引き返すことは出来ない。
『リンゴクオージのあなたが、アシスに居たのならば問題ないでしょ』
「旦那様は、すでにセージのハートを吸収しています。セージだけを残して外に出ても、大差はないでしょう」
「もし、問題があったらどうするつもりなんだ?」
「その時は、もう一度ダンジョンに入ります。それが間に合わなければ、その時はセージを完全に吸収すれば良いでしょう。その覚悟はお忘れなく!」
「ああ、その時は俺が責任を持つ」
その言葉を聞いたセージは、さらに顔を赤く染め今度はボーッとしてしまう。ハートを壊して吸収するという意味だったが、言葉だけの破壊力で完全に思考を破壊されている。
そこまで話が決まれば、後は最下層を目指すだけになるが、その前にコアとセージの契約を確認しておく必要がある。
クオンやコアが、俺の意思を実現させる為に行動したのだから、危険に晒しただけの俺はセージを生かす為の手段や契約について何も言うことはない。
ただコアに心音を与えたのは、音を操るベルになる。エルフ族は、精霊とも相性が良いのは分かっているし、他の精霊との相性は俺より上でもおかしくない。
「コアも、ベルと召喚契約してたのか?」
「いえ、私は旦那様の夫婦の契りを交わしておりますので、特別召喚契約を結ばなくても問題ありませんわ。セージは近くで見るだけならヒト族との違いは分かりませんが、念には念を入れませんと!鼓動がなければ、これから存在を見破られることもあるかもしれません」
俺の聴覚では鼓動の音を聞き取ることは出来ないが、獣人族や虫人の中でも聴覚に長けた種族であれば、十分に聞き取ることが出来る。だから、俺の心音をセージに与えることで、僅かな違和感も取り去った。クオンが聞いて分からないのであれば、他の誰にも見破ることは出来ないだろう。
『感謝しなさいよ』
「いつも感謝してるだろ」
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