第311話.1つだけの提案

「どうすルノ?」


 魔力吸収をレジストしていたが、それを止めるという方向転換に、ブロッサの表情が変わる。

 何時もは率先して首を突っ込んでくるのはムーアになるが、良く言えば話を前へと進めてくれるが、悪く言えば引っ掻き回してしまう。しかし、ブロッサが進化してからは少しずつ状況が変わってきている。


「魔力を吸収出来ずに固まったなら、魔力を吸収させてやればイイ。そうすれば、固まった魔力は元に戻るんじゃないか?」


『ちょっと待ってよ!それは危険過ぎるんじゃないの?』


 魔力を吸収させるという提案に、ムーアは激しく拒絶する。


「そうね、だけど考え方としては間違ってなイワ」


 しかし、ムーアとは反対にブロッサは俺の提案に理解を示してくれる。元々は無口だったブロッサだが、何も考えていないわけではない。話しながら考えたり解決の糸口を見つけるのがムーアならば、熟考して答えを見つけるのがブロッサになる。

 性格は正反対の2人だが、同じ中位精霊であること以上に、ムーアはブロッサの能力や知性を認めている。だからこそ、ヒケンの森ではブロッサのことを助けようともした。


『カショウの魔力を吸収させるって、また暴走してしまう可能性は低くはないと思うわよ。この閉ざされた空間で、暴走は絶対に避けるべきじゃないかしら』


 そして、ムーアはブロッサの意見を簡単に一蹴出来ず、反対意見を提示する。


「今回は違う!スライムみたいに、俺の中に取り込むんじゃない。それに、こんな固まってしまったカチカチの塊なんて飲み込めないだろ。あくまでも、魔力を放出して、状態変化するかを見るだけだ」


 起こったことだけを考えれば、成立する可能性は十分にある。しかし、必要以上に魔力を吸収される事態に陥れば、俺の魔力放出がどうなってしまうかは未知でしかない。結界に力を与えてしまうのか、それともスライムの時のように暴走させてしまうのか?


 おれ自身がその不安を払拭出来ないでいるし、その感情の声はムーアにはしっかり聞こえている。


「試してみる価値はあルワ。駄目な時は、そこで腕を切り落とせば大丈夫ヨ!」


『そうね、そこまで考えてるならイイわ。今回はブロッサに任せるわよ!』


 俺の両腕がかかっているのに、俺の最終の意思確認は行われずに方針は決まり、どんどんと話は進んでゆく。あくまでも俺の提案は1つだけで、これ以上の発言権は無いみたいだ。

 ブロッサがソースイを呼び、万が一に備えて俺の腕を切り落とす相談を始めると、もう後戻りする可能性はなく覚悟を決めるしかない。


「エッ···、ちょっと待ってくれ」


 何故かソースイは、父の形見である土オニの金棒を取り出している。俺の両腕を切り落とすには、不向きであるとしか思えない金棒に何の意味があるのかと、不安を感じてしまう。


「どうしタノ?残された時間は少なイワ」


「その金棒で何をするつもりなんだ?ダメな時は切り落とすんだろ?」


「カショウ様、お任せ下さい。暴走が始まれば、しっかりと腕を落として見せます」


 ソースイが金棒の感触を確かめるように、軽く素振りをしてみせる。自分にとって最も相性の良い武器は黒剣であり、土オニの金棒は不要だと言っていたような気がする。しかし、オニ族と金棒の相性が悪いはずがなく、十分に使いこなしてみせる。


「ソースイ、何で金棒なんだ?切り落とすなら、普通なら黒剣だろ!」


「ボロボロになっていても、精霊の作ったチュニックを切り落とすことは難しイワ。だから、あなたの腕を分断するだけの衝撃を与えて、引きちぎる方が確実ナノ」


しかし、それにはソースイじゃなくブロッサが答える。


 その時、僅かに結界の魔力の塊が成長する。


「さあ、始めましょウカ!もう時間切れよ!」


 俺の抗議の声は、あっさりとブロッサにシャットアウトされる。そして、ブロッサの声に呼応したイッショが魔力吸収のレジストを少しずつ弱める。しかし、それだけでは固まった結界は、俺から魔力吸収をしようとはしない。まだ、俺がただの物として認識されているのは間違いない。


「俺様の力にビビっておるのだ!カショウ、魔力を少しずつ流してみろ」


「それじゃ、始めるぞ!」


 両手を覆うように魔力を集めだすと、ようやく結界が俺の魔力を認識したのか、少しだけ感触が変わる。全く動かなかった指が僅かに動くようなり、少しだけ魔力が吸収されたような気がする。

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