第310話.契約の障害

「クソッ!」


 結界の障壁から溢れ出す魔力は、粘り気が強く纏わりつくような気持ち悪い感触だけだと思ったが、気付けば両腕はコンクリートで固められたかのようになり、ピクリとも動けなくなってしまう。

 どんなにマジックソード抜き差しようと思っても、肝心の腕自体が全く動かせないのだから、これ以上障壁にダメージを与えることは出来そうにない。


 そして、精霊達の冷たい視線を感じる。


「ダメージを与えれることは分かった。それに魔力は吸収されていない···」


『だけど、あなたも動けなくなってるわよ♪』


 少しだけ強がってみせたが、ムーアの笑いを噛み殺した声が胸にグサリと突き刺さる。

 結界がしたことは単純で、魔法を無力化するならば、魔力を抜いてやれば良い。しかし、魔法でない相手ならば動きを封じてやれば良い。今は、何とかホイホイに掛かった虫の気持ちが少しだけ分かる気がする。


『ソースイに頼んで、もう1度だけ召喚ハンソを試してみましょうか?』


 コンクリートのように固まった魔力ならば、今度こそ岩属性である召喚ハンソの真価を発揮出来るかもしれない。

 その言葉に反応してなのか、万全を期してマジックポーションを飲んでいるソースがいる。幾ら魔力量が少ないソースイでも、もう1度だけ召喚ハンソを行使するくらいならば問題はない。


「ソースイ、ちょっと待てっ!」


「カショウ様、他に方法はないかと思います」


「魔力が尽きるまで、召喚ハンソを試すつもりじゃないだろな?」


「ご覚悟を!」


 そう言いながら再度黒剣を翳して、召喚ハンソの態勢に入る。魔力が集まり冗談でなく、本気で召喚ハンソを打とうしている。


「待て、ソースイ!」


「召喚ハンソ!」


 ソースは何の躊躇いもなく黒剣を振り下ろす。しかし途中で魔力が飛散してしまうと、中途半端に召喚されたハンソがソースイの前へと落下してくる。


「エトーーーッ、エトッ」


 頭から床へと落下したハンソが起き上がると、ソースイの厳しい顔が見える。そして、キョロキョロと周りを見渡し、ソースイの黒剣が俺を指していることに気付く。


「エトッ、エトッ、エトッ」


 ソースイの思い描いたことを実現する為に、俺へと向かって全力で走り出すが、その瞬間ハンソの召喚は解除されて消えてしまう。


「残念です。やはり契約の影響でしょうか?」


『そうね、召喚ハンソは契約者に害を与えると取られたのね。それならば、カショウに向かって魔法を打つことも難しいかもれないわ』


「ギリギリを狙って、外すと念じれば!」


 再度ソースイが召喚ハンソを行使するが、それでも結果は変わらず、上からハンソが落ちてくる。


『困ったわね、他にはどんな方法があるかしら?』


「両腕を落としても、カショウなら死ぬことはなイワ」


 今度は、両手にポーションを持ったブロッサが現れる。ムーアだけなら冗談半分と思えるが、ブロッサはそんなタイプではなく一気に雰囲気が変わる。


『そうね、少しくらい腕を落とす場所を間違ったとしても、絶対に死ぬことはないわ。カショウと融合している精霊もかなり上位の精霊のはずなんだから』


「それにポーションもあるわ。これなら害を加えることにならないはずヨ」


 そこでブロッサの本気度を思い知らされる。ソースイが勝手にマジックポーションを飲むわけがない。間違いなく、ブロッサがソースイにマジックポーションを渡して飲ませていのだと!


「ブロッサ、もっと他に方法があるかもしれない!安全で確実な方法があるはずだ!」


「時間がないノ。このままの状態が続くとは限らなイワ。体全体が飲み込まれてしまえば、もっと状況が悪化すルワ」


『心配しないで!無くなった腕は、ナルキが代用してくれるわ』


 ブロッサの意見に、ムーアも賛成意見を重ねてくる。このままでは、本当に俺の腕が切り落とされてしまう。


「待ってくれ。こんなのはどうだ?」


 何も言わなければ、このまま事が進んでしまう。思わず口に出してしまったが、スライムの吸収で暴走しそうになった後だけに、俺が思い付く方法は敬遠されるかもしれない。


『時間が無いかもしれないから、1つだけ聞いてあげるわよ』


 ムーアの言葉は、俺の意見を1つは聞くという譲歩でもあるが、1つだけという最終通告でもある。それでも、傾きかけた流れを変えれるかどうかは俺次第。


「結界が魔力を吸収したいなら、好きなだけ魔力を吸収させてやればイイ」

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