第309話.激突
純白の翼と黒翼は、今までにない力と連携を見せる。その加速された速さは、軽いマジックソードと俺の技量不足を十分に補ってくれる。
確実にボトムアップされた能力で見える視界が狭まった時、脳裏に嫌な光景が浮かんでくる。
このスピードで結界を突き破ることが出来なければ、どうなるのだろうか···。
魔法は如何にイメージ出来るかが重要になるが、これは魔法じゃない。単なる実行に対しての結果でしかなく、待ち受ける未来は交通事故のようなものでしかない。
やはりマジックソードも俺自体も、結界は攻撃として認識してくれない。精霊樹の杖から放った魔法とは違い、結界からは何の抵抗も受けずに減速することなく障壁がせまる。
「うっ」
しかし、加速によって短縮された時間の中で、思ったことを言葉にして伝えることは不可能で、口からは最小限の言葉しか出てこない。
覚悟を決めて両手で強くマジックソードを強く握りしめ、タイミングを計って障壁へと腕を伸ばす。突き破ることが出来なければ、俺は原型を留めない肉の塊となるだろう。
ドンッ
透明な結界の障壁にマジックソードが突き刺さり、グサリという感触が伝わってくる。勝手に結界の障壁を膜だと思い込んだことを後悔する。障壁は薄い膜ではなく、マジックソードを半ばまで飲み込んでも突き抜けぬけることのない厚みがある。
完全にマジックソードの動きが止まると、今度は俺の伸ばした腕に負荷がかかる。負荷に耐えれなくなった腕が徐々に曲がり始め、一瞬で顔がマジックソードの柄と顔が並ぶ。そして、あっという間に柄をを追い越してゆく。
障壁に近付くにつれて、光景がスローモーションで流れる。ああ、アシスで精一杯足掻いてきたけど、俺の異世界転移は呆気なかったなと感じる。
これが走馬灯のようにというやつか···。しかし、不思議と記憶は蘇ってこず、近付く障壁に対しての恐怖の感情ばかりが大きくなる。
さらに障壁がゆっくりと近付き、障壁に頭が当たる。硬くはなく弾力のある感触が伝わってくるが、そこでスローモーションを通り越し、動きが止まっているような感覚になる。これから衝撃が全て頭へと伝わるが、その一瞬かもしれない時間が、こんなに長く感じるとは思わなかった。
「カショウ、何してるの?」
頭の中にナレッジの声が聞こえてくるが、止まったようにゆっくりと流れる時間の中では、そんなことは有り得ない。それとも、感情の声を聞き取ったのだろうか?
「ねえ、カショウ。そんな格好のままでどうするつもり?」
すると体が重力を感じ取り、足がゆっくりと地面に着く。止まったような短い時間の中でも、俺の体は驚異的な反応を見せ地面へとブレーキをかけにいったのかもしれない。正確には、俺と同化している精霊の仕業なのだろう。
「もう、止まってるよ?」
止まっている感覚ではなく、止まっているとは?するとシュルシュルっと音が聞こえ、ナルキの蔦が動いているのが視界に入りる。
「もしかして、ナルキが俺を助けてくれたのか?」
「まさか、結界にそのまま衝突するとでも思ったの?」
「お前達、そんな無駄話は後回しだ。早く離れないと、魔力が吸い取られるぞ!」
やっと邪魔物の存在に気付いた結界が、そこから魔力を吸い取ろうとしてくる。ナルキの蔦は、間一髪で障壁から離れることが出来たが、マジックソードは障壁に深く食い込み抜くことが出来ない。
しかし、マジックソードは形を変えず、そのままの状態を保っている。
「イッショ、魔力を吸収されていないぞ!」
「うむ、確かに障壁は魔力を吸収出来ておらんな。他の魔法の魔力は吸収されておったのに?」
「もしかして、魔物の魔石と一緒で無属性魔法が弱点なのか?」
魔物と同列にした俺の言葉が、結界を怒らせたのかもしれないと思わせるタイミングで、マジックソードに絡み付いていた魔力が俺へとターゲットを変えて襲いかかってくる。
「イッショ、準備は大丈夫か?」
「これくらいのことで準備なぞ必要ない。俺様クラスなら、才能だけで十分対応出来るわい!」
ねっとりと絡み付くような感触が襲いかかってくると、俺から魔力を吸い取ろうとしている感触が伝わってくる。それでも俺には吸い取られた感触はなく、結界が魔力を吸収することは出来ていない。
『それで、どうするつもりなの?』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます