第308話.再現

「カショウ、攻撃が届いているよ」


 真っ先に気付いたのはナレッジで、攻撃として意識していない俺は、それを把握するのが僅かに遅れる。


 無属性スキルの熟練度も上がり、バーレッジでマジックシールドもより細分化出来るようになり、今は小指の爪程までに分裂させている。それでも使い所はあくまで防御手段の弾幕としてでしかなく、バーレッジを攻撃手段とは思っていない。


 ナレッジに言われてみて、始めてバーレッジが何の抵抗も受けずに、結界へと突き刺さっているに気付く。


「カショウ、もう一回だよ!」


 マジックシールドはもう一枚展開している。だから、僅かに生じた変化が消えてしまわない内に、もう一度バーレッジを放つ。


 そして障壁への変化に気付いた他の精霊達の攻撃も止み、バーレッジだけが結界に向かって広がりながら襲いかかる。


 結界が防ぐものは、バーレッジ以外には何もない。


 しかし、バーレッジにはアースウォールすら貫くような威力も速さも無い。それよりも威力のある魔法を簡単に無効化してしまう結界の障壁が、バーレッジの防げないことが信じられない。


 だがバーレッジは何の抵抗も受けずに、障壁へと突き刺さる。


「本当なのか?」


 自分の放った魔法であるが、何かのイレギュラーが発生したのかもしれないと疑ってしまう。


「ウィンドカッター」


 そして目の前で起こったことを信用出来ずに、思わず放った魔法は簡単に無効化されてしまう。


「どうしてバーレッジは防がれないんだ!無属性魔法は攻撃としてすら認識されないのか?」


『どうしたの?あなたらしくないわよ。1つずつ試してみるしかないでしょ!』


 無属性魔法のスキルしかないコンプレックが強く出てしまうが、それでも今までにない変化には違いない。精霊樹の杖を構えて、なるべく威力を落として無詠唱でのウォーターボールを放つ。

 山なりとなって結界に飛んでゆくテニスボールほどの水玉ならば、当たったとしても傷付けることは不可能で、とても攻撃魔法とは言えない。


 しかし威力のない水玉であっても、結界に近付くとことは許されず、十分な距離を保って無効化されてしまう。


「何が違うんだ!俺の魔法の質のせいなのか?」


『1つ忘れてるわよ!私の魔法も、結界に無効化されやすいのよ』


 俺と精霊であるムーアならば、持っているものが全く違う。ましてや迷い人であるの俺と、中位精霊の魔法で共通するようなことなんて···。


『「マジックアイテム!」』


 2人に共通していることと言えば、精霊樹の杖とオニの小太刀とどちらもマジックアイテムを介して魔法を行使している。


『ウォーターボール』


 ムーアがオニの小太刀を翳して放った魔法は、俺のウォーターボールよりも遥かに威力があるものの、それでも俺の放った水玉と同じように、大分手前で無効化されてしまう。


『ウォーターボール』


 今度は、オニの小太刀を持っていない手から魔法を放つ。オニの小太刀により魔力を増幅されていないウォーターボールは、先に放ったウォーターボールよりも一回り小さいが、先に放った魔法よりも結界に近付き無効化される。


『どうやら、正解みたいね!』


「自前のスキルじゃないとダメってわけか」


 マジックアイテムを介すると、なぜダメになってしまうのか分からないが、対処する方法は見えてくる。


「バーレッジが通用するのなら、マジックソードはもっと通用するんだろ!」


『そうね!フォリーの紫紺の刀も、シェイドは無効化されても刀の形は保っていたわ』


 そうなると出番の無かった、リズとリタが俄然とやる気を出して、それに負けじとラガートも気合いを入れ始める。純白の翼と黒翼は大きく羽を伸ばし、俺の声が掛かるの待っている。


「まだ接近戦をするとは言ってないんだけどな」


「お主の操るマジックソードでは、結界を破る力はなかろう。ヴァンパイヤの小娘でも破れんのだから、お主だけの力では到底敵わんだろ」


『的確ね、ラガートの言う通りよ!』


「俺も最初から否定はしていないさ」


 俺が一歩踏み出すと、自動的に翼も動き出す。以前と違って俺が加速する必要はなく、最初の一歩は合図の役割でしかない。


『ストーンバレットよ!』


 それと同時にムーアがストーンバレットを放つ。それは透明な障壁の位置をより正確に教えてくれ、それに向かってマジックソードを突き立てる。

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