第307話.暗中模索
「召喚ハンソ」
ソースイが黒剣で結界を指し示すと、いつものように加速しながらハンソが現れる。
「エトーッ」
いつものお決まりの光景であるハンソの“エトーッ”の声は、感情の声が聞こえるようになった今でも何を意味しているのかは分からない。自身を鼓舞するでもなく、相手を畏怖させるでもない。ただ驚いているだけなのか、それとも条件反射に近い声なのかもしれない。
そして俺が展開したグラビティで、いつも以上の加速度を得たハンソが、結界へ向かって突撃する。突進力だけなら申し分ないが、結界に近付くにつれてハンソの勢いは急速に弱まる。大気圏に突入したかのようにハンソの体は真っ赤に染まると、体の表面が削がれるように、少しずつ消失している。
「ストーンキャノン」
しかし、それくらいは想定内のことでもあり、グラビティを展開しただけでは終わりじゃない。失った体を強制的に補強するように、土属性の魔法を放つ。岩オニの戦いの時を再現出来るならば、ストーンキャノンはハンソの失った体を補強し、さらに高みの存在へと昇華させる。
「前のように、ガッタイ進化して見せろ!」
「エーーートーーーッ」
ハンソの悲鳴とも雄叫びともいえない声が轟く。
だが、俺の放ったストーンキャノンは、結界に近付くと召喚ハンソの勢い以上に魔法としての力を急激に失い始める。ハンソよりも大きかった岩の塊は、全て塵となり風魔法のように拡散されてしまう。
ハンソの体に届いたのは土埃程度で、それだけではガッタイ進化出来るわけもない。ハンソも、どちらかといえば土埃を嫌がって振るい落としている。
「これでも、ダメなのかっ」
『仕方ないわよ。あれでも、一応は精霊なんだから!』
ハンソの体は特殊は岩で構成されていて、特赦な方法でないと掠り傷一つ付けるのも難しい。それにハンソといえども、精霊自らがつくり出した体である。俺が精霊樹の杖の力を借りてでしか作り出すことが出来ない岩と、ハンソの体を比べること自体が間違なのは分かっている。
それでも俺のストーンキャノンは、水に溶ける角砂糖のように消えてしまい、質の違いがここまで大きく影響するのかと驚愕させられる。
コンッ
ハンソは結界に力なくぶつかる。結界にまで辿り着いたことは、衝動を解放したフォリーと同等の力を示したと評価するべきなのかもしれない。そして、これ以上の召喚ハンソを続ける意味はなく、ソースイはハンソの召喚を解除する。
ウィスプ達のレンブラントに、召喚ハンソを同時に受けても、結界にダメージを与えれたという手応えは全くない。
「質でダメなら、手数で勝負する」
個の攻撃が無効化されるならば、それが追い付かないほどの魔法を結界に叩きつける。何も考えずに思い付くだけの攻撃魔法を、結界に向けて矢継ぎ早に放つ。
「ウィンドトルネード、フラッシュオーバー、エントレイメント」
風属性·火属性·水属性と俺が中位魔法を連発すると、それに呼応するように他の精霊やソースイ達も様々な攻撃手段で結界を攻撃し始める。
明確な手応えじゃなくてもイイ。今までにない反応があれば、それが何かの手掛かりとなるかもしれない。僅かな反応を期待した、我武者羅な攻撃を繰り出す。
それでも魔法と結界が激しくぶつかり合うような音もしてくれない。結界によって拡散された魔法が、派手に視界を塞ぐだけで、何かが起こりそうな感触さえ感じられない。
『カショウ?』
「ああ、分かってるよ···」
ムーアは俺の名前しか呼んでいないが、何を言いたいのかは良く分かる。その言葉で放っていた魔法を止めると、結界を覆い隠していた魔法が晴れてゆく。
俺とムーアの魔法だけは、全くといっていい程に効果がなく、それよりもソースイがスリングで投擲した石の方が結界に届いている。
「どちらかといえばソースイの投擲した石を、俺の魔法が邪魔しているな」
『残念だけど、私もそうみたいね』
中位魔法で全くダメならば、それが上位魔法になったとしても結界を破るような劇的な変化は起こさないだろう。
「クソッ、何が違うんだ?」
半ばやけくそともいえる感じで、結界に向かってバーレッジを叩きつける。特に意味はなく今は意味のなさない魔法を、投げつけただけでしかなかった。
「マジックシールドは···結界に届くのか?」
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