第312話.凝縮された魔力
僅かに指先が動くことで、固まった障壁との間に隙間が出来ていることが分かる。確実に障壁の状態変化は起こっていて、もう少し魔力を流してやれば腕は抜ける。
「大丈夫だ!暴走もしていない」
一番心配していた俺の魔力の放出はなく、俺の能力でも十分にコントロール出来ている。しかし、予想した以上に障壁の魔力吸収は遅く、最初に手に集めた魔力すらも吸収しきれていない。
『吸収が遅過ぎるわね。警戒されているのかしら?』
「そうね、状態変化が起こった瞬間がチャンスなのかもしれなイワ」
「結界を破るのか?」
指から手首へと徐々に可動範囲が広がり、少しずつ動かせる範囲が広がってくると、マジックソードを握り直して力を込めてみる。
「ダメそうだな。マジックソードは動きそうにない」
それでも、結界が変化を起こしたことや、変化に差が表れたことの意味は大きい。ムーアやブロッサの予想通りで、結界はこれ以上の接近されるのを嫌っているのは間違いない。マジックソードは結界を貫通することは無かったが、あと少しのところまで行っているに違いない。
焦る気持ちを抑えつつ、結界が俺の魔力を吸収するのをじっくり待つ。少しずつ吸収されてゆく魔力を補充するが、依然として魔力の吸収スピードは上がらない。
それでも少しだけ腕が動くような感触が出てくる。固まった障壁の魔力の状態変化を意味しているならば、魔力吸収スピードは上がるはず。しかし何度も手を動かして感触を確かめれば、俺の焦りが伝わるような気がして、固定されたまま動かないマジックソードを握る手に力を入れる。
僅かに魔力の障壁が震え、遂に大きな変化の兆候を見せる。
「カショウ、不味いぞ。魔力吸収が止まった」
「えっ、どういう事だ?この振動は、障壁が溶けだす兆候じゃないのか?」
「全くの逆だ!お主の魔力の吸収を拒否しているぞ」
さらに障壁が震えると、表面が膨張したかのように丸みを帯びる。全体が膨張しているのであれば、障壁の中の空間も広がるはず。しかし、腕の動く範囲は全く変わらず、まだ抜けるという感触はない。
「イッショ、どうなってるんだ?」
「お主の魔力を吸収しきれていない」
「そんな訳ないだろ。俺の魔法を一瞬で無効化してただろ!」
「無属性魔法は、魔力だけで物質を作り出すのだぞ。魔力を馬鹿食いする魔法と、他の魔法の魔力量が同じであるはずがなかろう!」
俺が物質魔法を行使するようにして集めた両手の魔力は、少ないように見えて実際は凝縮された濃い魔力になる。そして魔力吸収を止めるということは···嫌な予感しかしない。
「どうなる?」
「魔力を吸収し続ければ、どうなってしまうか。それはお主が一番分かっておろう!」
俺が魔力を吸収し続ければ、膨張して爆発してしまう。俺と一緒ならば、この障壁が膨らんでいるのは···。
「吹き飛ばされるのか」
「そうでなければ、再び障壁は固まってしまうだろうな」
最悪の選択肢だが、まだ腕が動く余裕はあり障壁は完全には固まってはいない。今ならば強引にでも、腕を引き抜く事が出来る可能性はある。
「強引にでも腕を引き抜くしかない!」
『イイの?多少なりともダメージはあるわよ』
再び腕が固められるようなことがあれば、ソースイが金棒で俺の腕を粉砕しにくる。
「ああ、腕が無くなるよりはマシだろ」
「残念だが、マジックソードから手を離せなければ、腕を引き抜くことは出来んぞ」
「···」
そのイッショの言葉には、何も返すことが出来ない。
『はあっ、その反応は無理なのね···』
単純なことに気付いていない俺に、呆れたムーアの言葉は短い。そして、ブロッサに向けて軽く両手を挙げてみせる。
「それならば、マジックソードを無効化しまショウ」
俺の魔力で出来ているマジックソードは、無効化すれば再び魔力の塊へと戻る、そうなれば中の空間も広がり、より腕を引き抜きやすくなる。しかし、障壁が魔力吸収を拒否しているとはいえ、中がより魔力で満たされてしまう。
『大丈夫なの?障壁が暴走する可能性は高まるわよ』
「魔力に戻ると同時に、イッショに吸収させれば大丈夫よ。だって魔力吸収をレジストする必要がないのだから、今は何も仕事してないでしょ」
さらに障壁が膨らみ、薄い亀裂が無数に入る。
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