第296話.魔物との契約

 勝手に“地”の力をダンジョンとしたが、それはただの憶測でしかない。

 “地”という言葉だけから連想しただけで、地下から溢れ出してきたスライムが関係ないかと言われれば否定出来ない。


『あら、あなたの仕出かした事から比べたら、至極まっとうな考えだと思うけど』


 今まで汚れる事があっても、チュニックは傷付くことはなかった。それだけでなくチュニックに付着した汚れでさえも、気付けば綺麗になってしまう程に優れた性能を持っている。

 しかし今は外に羽織ったローブで隠してこそいるが、中に着ているチュニックは辛うじて服としての体裁を保っている。その損耗度合いは激しく、とてもローブを脱いで見せることは出来ない。そして幾ら俺がチュニックの事を隠そうとしても、影の中に潜む精霊達にとっては一目瞭然で分かってしまう。


「発想は悪くな···」


 途中まで言いかけたが、影の中から強い視線を感じて、最後まで口にすることは出来ない。チュニックは少しずつ修復を始めていて、それが無事に済んだという証拠でもあり救いでもあるが、毎回これが続くとは限らない。


「ああ、分かってる」


今は何を言っても無駄なのは分かっているので、短く最小限の言葉で返事する。しかし、そんな俺の気持ちをムーアは見透かしていくる。


『ホントにそう思っての?2度と魔物を体内に寄生させようなて考えないでね!』


「次に同じことをしようとしても、このチュニックも許してくれないさ」


俺としては複数でブロックされるというつもりだったが、人任せで自覚がないと捉えたムーアの機嫌はさらに悪くなる。


『やっぱり、コアにもキツく躾しておいてもらわないとダメね!チュニック任せなんて、事の重大さを全く理解していないわ』


 とにかくマズい予感がして、慌ててスライムの契約の話に戻す。


「でもな、スライムに名付けして契約しても大丈夫なのか?スライムが凶悪な存在だったらどうする?」


『それは言えば、ハーピーやオークだって一緒よ。凶暴なハーピーの中でも、武闘派のロードとだって契約しているのよ。それでも問題はないでしょ!』


「問題にはなってないけど、今度の相手はスライムだぞ。俺の魔力で暴走したりしないよな?」


 俺の中の凝縮された魔力だったとはいえ、暴走したスライムと契約を結ぶのには多少なりとも不安がある。もし暴走するようなことがあれば俺の体も、軽石みたいにボロボロになった魔石のようになるかもしれない。


『失礼ね!誰かのスライムを寄生させようとしただけの、安直な方法と一緒にしないでもらいたいわ。契約の力は、あなたの中に凝縮された魔力から必要な分だけを取り出せるくらいに強い制約と力を持つのよ』


 俺が話を逸らしたことを理解しているのが、ムーアは契約の力を疑われたとあっては黙っているとこは出来ない。さらにムーアの言葉を援護するように黒翼が大きく広がる。


「その様子だと、契約にラガートも賛成なのか?」


「幾ら暴走したといっても、あの魔力は特殊過ぎる例外であろう。スライムの持っていた力は、我らに引けをとらない。それに契約して力を示しさえすれば、魔物と呼ばれる我らの地位向上にも繋がる」


「魔物の地位向上って?派閥をつくるつもりじゃないだろうな?」


「言葉は正確に使って欲しいぞ。“魔物と呼ばれている”、我らの地位向上だ!」


 魔物と呼ばれているが、ラガートにとってハーピーとスライムは全くの別物の存在になる。勝手に“魔物”という括りで纏められているだけで、自らを魔物と名乗っているわけでもない。それに俺達がハーピーを見て魔物と認識するのと同じで、ハーピーもスライムを見て魔物と認識している。


「ラガートはスライムの事を知っているのか?」


「存在は知っているが、詳しくは分からん。ただ、こんな巨大な力を示す存在と契約出来れば、役に立つかもれしれん」


「そこは、役に立つと断言しないんだな!」


「それは契約者の能力が試される。残念ながら、そればかりは我では力になってやれん」


 元々スライムを体の中に寄生させて魔力を消費しようと考えはラガートも理解しているようで、契約者の能力次第という言葉が耳に痛く響く。


「ムーア、本当にイイのか?魔物と呼ばれる存在を集めることは、精霊にとって悪いことじゃないのか?」

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