第295話.魔力のブレス
俺が耐えきれずに吐き出したのはスライムと、濃縮された魔力のブレス。若干青みがかっているが透明なブレスは、上に浮かんでいる魔石を飲み込み、さらには津波のように高さを増したスライムを消滅させてしまう。
どこか他人事であったが、始めて自分自身の危険性を思い知らされる。ライの言ったことの全てを鵜呑みには出来ないと思っていたが、これだけは疑いようのない事実。あの祠で俺が暴走すれば、ライの存在も消滅していたと断言出来る。
『濃すぎる魔力ね。こんな魔力は見た事がないわよ』
「カショウ、これは絶対にやってはならんぞ!この魔力を感じただけでも、狂ってしまうヤツは出てくる」
「そう言われてもな···何が起こったんだ?」
強烈な吐き気に耐えるだけであった俺には、ただの魔力の塊を吐き出しただけで、何が起こったのかを理解出来ていない。
『濃すぎる魔力を吸収して、スライムが暴走したのよ』
上を見上げるとスライムの親玉である魔石は、穴だらけの軽石のような姿となり、チリチリと火の粉を散すようにして、ゆっくりと落下してくる。
『自身の扱えるスペックの何倍以上ものスキルを強制的に発動させられて、その負荷に耐えきれなかったのね』
「スライムは消滅したけど、親玉の存在は消滅しないんだな」
『途中でブレスが止まってなければ消滅していたかもしれないけど、十分に上位種たる存在を証明しているわ!』
「消滅していないなら、終わらせてやるか」
上位種ならば放っておけば、復活してくる可能性は高い。しかし、魔石から聞こえてくる苦しみの感情。復活するにしても、長い時間が必要となり苦しみに耐えなければならない。
マジックソードを構えて、ゆっくりと落ちてくるスライムの魔石を貫く。ゴブリンキング達と同様に、パキンッと砕ける感触だけを残して魔石は粉々に砕け散る。
「えっ、これって···」
『もしかして?』
砕け散った魔石の粉が、俺の体へと引き寄せられる。そして、体に付着した魔石の粉は、雪のように解けて消えてしまう。そして次にやってくる、体の中へと流れ込む独特の感覚。
「スキルを吸収している」
しかし都合の悪いのは、どんなスキルを吸収しているかは分からない。スライムの中にも、キングやロードのような存在がいるのかさえ知らなければ、言葉を持っているかなんて知るわけがない。
『スライムの言葉を吸収しているのなら、あなたの言葉は通じるの?』
残されたスライムが言葉を発する事ができなくても、俺の言葉に反応するかは確認する事が出来る。残されたスライムに近付いてみると、今は感情の声すら聞こえない。
「おい、スライム!俺の言葉が分かるか?」
しかしスライムは全く動くこともなく、声を掛けても感情の声さえ聞こえてはこない。それどころか、どんどん魔力を放出し嵩を減らしてゆく。
『上位種がいない下位種だけでは、まとまった行動も思考も出来ないのよ』
「思考出来ないなら、本能に聞いてみるしかないか」
今度は左手でスライムを掬うと、精霊樹の杖の先端に小さな火球をつくりだす。それをスライムに近付けると、スライムからは恐怖の感情の声が聞こえだす。
「俺の声が分かるなら、返事をしろ!返事をすれば、助けてやる」
それでも、スライムからは恐怖の感情の声しか聞こえてこない。
『残念だけど、言葉は伝わってないみたいね。私に聞こえてくるのも、普通のアシスの言葉でしかないわ』
「これ以上は、このスライムに聞いても無駄なだけか···」
『そうね、残りの方法は吸収したスライムの親玉から聞くことかしら?』
「スキルを吸収したから体の中に取り込んでいるかもしれないけど、聞くことなんて出来ないだろ?」
『そんなの簡単よ、言葉を与えればイイだけでしょ。あなたは幾つもの言葉を持ってるのだから!』
「それって、名付けして契約しろって言ってるのか?」
『全てがラガート達と同じとは言わないけど、可能性は否定出来ないでしょ!』
「イスイの街を崩壊させたかもしれない未知の魔物相手に、それをする意味はあるのか?」
『スライムがヒガバナから吸い上げられて出てきたのであれば、ここの地下にも何か起こっているのは間違いないわ。それが“地”の力である可能性は否定出来ないわよ』
「サージの言葉か···」
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