第256話.オヤの街とラーキの寿命

「ミクだよ、ミク」


 俺が名を告げると、目の前にラーキの花が現れる。芝桜のように表面には無数の花びらが集まり、そこには様々の色が花が混ざっている。しかし花の華麗さとは裏腹に、その下には有刺鉄線のような蔓や根が伸びている。


 そして、ラーキが盛り上がり始めると徐々に形を変え、女性のような姿になる。


「ありがとうございます、ご主人様。ラーキの精霊、ミクにございます」


 しかし、急にしまったという顔をすると、ピョコンと猫ミミが現れる。


「大変失礼しました。改めまして、ラーキの精霊ミクにございます。名に恥じぬような働きをご覧に入れます」


「今は取り敢えずは、休んで回復しれくれと言いたいとこだけど、その前に少しだけ教えてくれ」


「はい、何でもお聞き下さい」


「ラーキの根は、どこまで広がっているんだ?」


「オヤの街を覆うように伸びていますので、この草原の半分くらいにはなるでしょうか」


「ここも、オヤの街の一部でいいんだよな?」


「ええ、そうです。しかしオヤの街は、まだまだ広がっております」


「じゃあ、ミクもそれに合わせて成長していたのか?」


「エルフの寿命を生命の源としているので、これくらいまで成長することは可能です。しかし残された寿命は、後1年ほどといったところでしょうか」


 ハーフリング族の欲望に合わせて成長した結果、ミクに残された寿命も少なかった。オークが何もしなければ、ミクの寿命に気付き解放する事はなかっただろうから、今回の結果は良かったのかもしれない。

 それにしても、ここまで拡張したオヤの街でハーフリング族は何をしているのだろうか?


「他に、何かありますでしょうか?」


「ああ今はこれで大丈夫だ。しばらくは、ゆっくりと休んでくれ」


「はい、ご主人様」


 そう言うとミクは、カーテシーのような挨拶をしてブレスレットの中に消える。


 ミクが俺に挨拶をしている間も、ムーアはじっと俺の顔を見つめてくる。


『やっつけ仕事っぽく見えたけど、ちゃんと考えてる名前みたいだから由とするわ。ラーキの精霊も気に入ったみたいだし』


「名前は特別なんだろ」


『分かってるならイイわよ』


 迷い人の俺であっても、アシスの言葉を理解し話す事が出来る。しかし元の世界の言葉とアシスの言葉では、明らかに言葉の持つ力が違う。特に名付けには重要な意味があり、精霊の力にも大きく影響を及ぼす。


 だから古の滅びた記憶にも、魔物の根幹となる五感スキルだけでなく、言葉が込められているのかもしれない。そこでコボルトキングの言葉を思い出す。


「“古の滅びた記憶を集めよ。さすれば道は開かれん!”だったかな?」


『廃坑で聞いたコボルトキングの声ね。それがどうしたの?』


「全ての記憶を集めれば、ゴブリンやオーク持っている理や力が何なのか分かるのかもしれない」


『それは、あなたが暴走しなければよね』


「まあ手伝ってくれる、物好きな精霊を探すよ。最低でも後1人は必要だしな」


『あなたは、せいぜいコアと夫婦の契りを深めておくことね♪』


「それ···」


 ムーアに言い返そうとした時、再び天井の岩盤が大きく崩れ落ちる。地中に張り巡らされたラーキの根が消滅した事で、さらに地盤が脆く崩れやすくなっている。


『急いで、ロードを追いかけましょう』


 ムーアに促されて、ブロッサがロードの臭いを辿り始める。役割分担と決めた事ではあるが、いざ仕事が減ってしまうと寂しい気もする。


「もう、俺の仕事じゃないんだな」


『いつ何がきっかけでスキル暴走が起こるか分からないのよ』



 横穴に入ると、壁には所々で燭台のような台座が設けられているが、そこには灯りはない。しかし燭台は等間隔に設けられ、使われていた事を感じさせる。そしてロードの臭いは、通路の中央をふらつきもせずに真っ直ぐに伸びている。

 ロードは、この闇の中でも見えているのか?夜目が利くクオンやブロッサならば暗闇の中でも問題ないかもしれないが、オークが夜目が利くとは思わない。


「やっぱり、ウィプスの臭いがするワ」


 ブロッサが燭台に残る微かな臭いに気付く。燭台に近付いてみると、確かに感じられる臭いはルーク達に似た色や記号をしている。

 そして他の燭台も同様にウィプスの臭いが残っているが、そのどれもが色や記号が僅かに違う。


「ホーソン、精霊を灯りとして使うのはアシスでは良くある方法なのか?」

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