第257話.ライの影と迷い人の指輪
ホーソンの話では、精霊を灯りとして使う方法は一般的なことらしい。魔石に魔力を込めて、その魔力を供給してやる事で精霊はそこを住みかにしてくれる。
特に下位の力の弱い精霊であれば縄張り争いをするリスクよりも、安定した住みかを得るための手段として協力してくれると言われれば納得出来る。
「精霊を灯りとする方法は普通なんだなよな」
「ただ灯りとなる精霊がウィプスであれば、一般的ではないですね。灯りとするなら先ず光や火の精霊になるので、雷の精霊を灯りにするのは珍しい事です」
「でもライの居た祠じゃあ、何体ものウィプスが灯りとして使われていたぞ」
そこで思い出すのが、アシスに転移してきた時にライの祠で見た光景。台座のようなものがあり、そこにいるウィプス達は間違いなく灯りとして使われていた。
アシスという世界は知らないが、ライの祠はゴセキ山脈の麓で人の住む世界からは遠く離れている。そんな場所にあるものは、どちらかといえば時代遅れの物ばかりで、珍しい物があるとは思わなかった。
「それは珍しいですよ。ウィプスは良く知られている精霊ですが、絶対数は少ないですねからね」
単純に自然現象だけを考えれば、火や光の方が雷よりも圧倒的に多い。当然それに合わせて精霊にも差が生まれ、火や光の精霊は多く雷の精霊は少ない。
「でも、アシスであれば常に嵐が起こっていたり、雷が鳴っている場所もあってもおかしくないんだろ」
「それはゴセキ山脈での話ですね。あそこであれば可能かもしれませんが、この辺りでは考え難いことですね」
そして、ホーソンは改めて壁の燭台を眺める。燭台は通路の両側にあり5m程の間隔で並んでいる。それは横穴に入ってから途切れることなく続き、その一つ一つにウィプスが居るとすれば、この横穴だけでも千を超えるのウィプスがいるかもしれない。
「そこまでしてウィプスを灯りとして使う、それも大量に集めなければならない理由が何かあるのか?」
「そうですね、火や光の精霊はダメでウィプスにしか出来ない事ですよね」
今回は後戻りする事は出来ず、先に進むしかない。それでも異様さに少しだけ躊躇してしまう。思わず俺の周りを飛ぶルーク達に目がいくが、それこそ進化したウィプス達の姿はさらにイレギュラーな存在になる。
『難しく考えなくても、オークに有効なのは雷属性。ライはウィプスを集める術を知っている。今は言えるのは、それだけじゃないかしら』
「ライが関係していると思うか?」
『否定はできないでしょ!』
「オークを巻き込んだ、壮大な企みの一貫でも不思議ではないか」
改めてライの祠にいた時の事を思い返して、ふと不思議に思う。
「なあ、ホーソン。下位の力の弱い精霊なら魔力を供給してやれば、契約してくれる事が多いんだよな」
「はい、そうです。それが何かありましたか?」
「ウィスプは、力の弱い精霊なんだろ」
「進化したルークさん達は特殊ですけど、一般的には下位の力の弱い精霊の扱いになりますね」
「ライの祠で、俺に近付いてきてくれたのはルークメーンカンテの3人だけなんだよな。俺の魔力量があれば、もっと近付いてきてくれてもイイはずなのに」
今ライの祠に戻る事ができれば、あの時には見えていなかった事が見え、何か手掛かりが掴めるのかもしれない。しかし、あの時はアシスで生き残るために必死で、そこに何があったかなんてハッキリとした記憶はない。
唯一ライとの繋がりがあるものは、最後に貰った迷い人の指輪くらいしかない。直接危害を加えられたり、明らかに敵として対峙したわけでもないが、それでもライから貰ったものを身に付けていることが得体のしれない不安を感じさせる。その不安から逃れる為に、初めて指輪を外してみる。
『んっ』
ムーアが驚いたように、俺を見つめてくる。
『ブロッサ、どう思う?』
「私も同じヨ」
ブロッサや他の精霊も同じようで、一様に俺を見つめている。
「何かあったか?」
『何か、変わったことはない?』
「特別何かが変わったって事はないな。強いて云えば、少しスッキリした気がする感じがするくらいだな」
『もう一度、指輪を嵌めてみて』
一度外してしまうと、再び指輪を嵌めるのには少しだけ抵抗を感じてしまう。しかし、ムーアの目は真剣で、何かを感じ取っている。
「それじゃあ、嵌めるぞ」
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