第212話.オーク現る
ボゴオッ
チェンの放ったウォーターアローは、確かに化物の顔面へと命中した。しかし聞こえて来た音は、掃除機に何かの塊が吸い込まれたような音がする。命中はしたが手応えはなく、化物に纏わり付く水を吹き飛ばす程度の衝撃しか与えていない。
「あれって、オークなのか?」
『知ってるのとは、少し違う···わよ』
目の前に現れたのは、オークと半魚人を掛け合わせたような姿の魔物。イノシシのように鼻が突き出し尖ったような顔で上下左右と突き出した牙はオークといえる。しかし顔も体も流線型を帯び、どちらかといえば水の中を動くのに適した姿といえる。
ただ、赤い眼をしている事が魔物である事を主張している。
「旦那っ、食べちまいやしたぜっ。ウォーターアロー···」
話では聞いていたが、実際に目の当たりにすると衝撃は大きい。間違いなくこのスキルの特徴はオークしかおらず、チェンの魔法程度なら吸収してしまう能力がある。そして問題は、どこまでの攻撃を吸収してしまうかになる。
「ホーソン、ストーンバレットだ!」
ホーソンが4つの石の弾丸を放つ。しかし、ホーソンのストーンバレットもウォーターアローと同様に吸収されてしまう。
固体であるストーンバレットの方が多少なりとも有効だろうと思ったが、ウォーターアローと大差は見られない。それに4つ同時に放った弾丸は、オークに吸い込まれるように口の中に収まってしまう。
「少しは効果があると思ったけど、甘かったか」
『そうね、顔の近くの攻撃は避けないとダメね。かなり吸い込む力は強そうよ!』
今度はウィプス達が前面へと出てきて存在をアピールしてくる。ウィプス達のサンダーストームなら、広範囲攻撃で速さもある。そう簡単には吸収は出来ないはず。
「ああ、分かってるよ。頼んだぞ!」
ウィプス達のサンダーストームがオークに襲いかかる。オークのいる周囲一帯を雷が襲い、少しは口からは吸収されるが体に当たった箇所はダメージとなる。しかし直ぐに、吸収とダメージが拮抗してしまい膠着状態となる。
『どうするの?致命傷にはなっていないわよ』
「ああ、分かってる。あの吸収してる口を塞いでやるさ!」
精霊樹の杖を構え魔力を流す。口に入るサイズなら飲み込めるかも知れないが、それならば口に入らないサイズにしてやるだけ。
オークの顔より一回り大きい、石の弾丸を具現化する。これならばオークの口が伸びない限りは、口の中に入れる事も飲み込む事も出来ないはず。
「ストーンキャノン」
“奥、もう1つ”
俺が魔法を放とうとした瞬間、クオンが別の気配を探知する。しかし、もう止まる事は出来ない。新しいオークが現れるなら、目の前のオークをそれより早く倒すしかない。
そして奥に見えるオークも、大きく口を開けているのが見える。2体揃って吸収しようとしているのなら良かったが、そこからが違った。
奥のオークは口からブレスを放ち、それがストーンキャノンとぶつかり合う。一瞬で砲弾の周りがボロボロと崩れ始め、見る見る間に小さくなり勢いも失って行く。
それでも口に入るサイズよりは大きい塊は残されたが、手前のオークは雷を浴びながらも片手でキャッチし果物でも齧るかのようにして食べ始める。
それでもオークが余裕を見せているならばと、先頭に出て距離を詰める。ダークの紫紺の刀なら、オークの吸収を受けにくいだろうし、簡単に吸い込まれる事はない。
しかし、シナジーが消臭している為に、俺の周りの動ける範囲は限られている。ムーアが代わりに手伝ってくれてはいるが、ダークの動ける範囲は10m程でしかない。
また、消臭出来ている範囲も俺の周りの5m程でしかなく、俺の動きに合わせてソースイやホーソン·チェンが動かなければ、消臭の範囲から外れてしまい、色々と制限がかかってしまう。
「クソッ、前に出るぞ!」
しかし、一瞬で前進が止められる。
「ゴホッ、ゴホッ」
オークが余裕をみせていた理由、それはこのブレス攻撃にあった。
ブレスの刺激臭で近付くことが出来ず、下がるしかない。それに、ブレスに触れただけで道具や装備が腐食しボロボロになってしまった。流石に精霊樹の杖は大丈夫だが、俺のローブはもう使い物にならない。
ブレスを放ったオークは崩れ去る装備を見ながら、ニタニタと獰猛な笑みを浮かべ、ゆっくりゆっくりと品定めするように近付いてくる。
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