第213話.オーク2人

 誰だ、誰の声なんだ。我らを苦しめる、禍々しい声。その凍てつくような声は、凍えるように頭の中を響き渡り、そして耐えることの出来ない苦しみをもたらす。

 やっと苦しみから解放されたのに、誰がまた苦しみをもたらす。進化出来ない我らが、体を削り、潰し、苦痛に耐えて手に入れた体とスキル。そして手にした安住の地。


 また、それを脅かす者が現れた。苦しみから早く解放される為には、元凶を絶つしかない。


 誰が、我らを貶める。

 誰が、我らを辱しめる。

 誰が、我らを苦しめる。


 感情が爆発し世界を赤く染め、嵐を巻き起こす。しかし、凍てつくような禍々しい声を壊すには、こうするしか方法がない。


 赤い世界が終わりを告げ、目の前の景色にいつもの色が戻る。


 だが、どうなっているんだと困惑するしかない。ブレスの残滓の中であっても、まともに突っ込めば無事で済むことはありえない。どんなものであっても腐食し、劣化し存在を保つ事は出来ない。

 それなのに目の前のヒト族には、多少むせて涙目になった程度の効果しかなく、平然とした顔をしている。そして驚くべきは、それだけでない。劣化し崩れ去ったのは上に羽織っているローブのみで、持っている杖もローブの下から現れたチュニックにも何の変化も起きていない。


 どうなっているんだ?お主らは何者なんだ?決して前には出るなと言われているが、自らの目で確かめるしかない。2人しかいないのだから、キングもロードも関係ないさ、横までなら大丈夫だろう。これなら、前には出たことにならない。





『カショウ、大丈夫?』


「まさか、口臭のキツいオークがいるなんて知らなかった。一瞬、意識が飛びかけたぞ」


 結構使い勝手は良くて気に入っていたのに、もうローブはボロボロで使い物にならない。吸収スキルは分かっていたが、まさか口臭をブレスのように吐き出すとは思っていなかった。精神的なダメージもあるが、武器や防具が破壊されるダメージも、思った以上に大きい。


「だけどあれは本当に、オークなのか?」


『手を見たけど、水掻きが付いてたわよ』


「どうなってるんだ?魔物に変異種とか、異種とのハーフっているのか?」


『そんなの見た事も聞いた事もないわよ』


「あれは下位種なのか?そうだったらオークは、これまでにない危険な魔物になるぞ!」


『昔とあまりにも違い過ぎるから、分からないわよ』


 2体のオークは見た目は大きく変わらない。最初に現れた吸収スキルを持ったオークは全身が赤みがかり、後から現れた口臭というブレスを放ったオークは青みがかった色をしている。しかし2体のオークが並ぶと、体は全く異なる印象を受ける。

 赤みがかったオークの体は綺麗な流線型をしていて、ウィプス達の攻撃を受けていた事さえ感じさせない。傷一つない綺麗な体で、毛並みすら乱れていない。

 それに比べると、青みがかったオークは、全身が傷だらけで、流線型を描いている体は無理矢理に体を削り取ったような印象さえする。当然体には幾つも傷痕があり、所々には毛がない場所もある。


 2体の色が違うのだから、少なくても同格の存在ではなく、どちらかが上位種になる。

 第一印象は、体の赤みがかったオークの方が上位種っぽい。洗練された体型と傷のない体には、異臭の漂う湿地帯にあっても品を感じさせる。しかし、青みがかったオークは全身傷だらけで下っ端感を感じさせるが、先に現れたのは赤みがかったオークの方になる。後から現れた青いオークは、ブレスを放ち青みがかったオークを助けたようにも見える。


 そして奥にいた青いオークが、ゆっくりと前に進み出てくると、赤いオークが左手を横に広げて歩みを止める。

 しかめっ面をする赤いオークに対して、にこやかに笑みを浮かべる青いオーク。


「青いオークが上位種なのか」


『両方とも立ち居振舞いは上位種っぽいわよ』


「じゃあ最低でも、ロード以上が確定だな?それにしても、いきなりロードって」


 それと同時にウィプス達に合図を送って、再び攻撃を再開する。魔物である以上、相手の行動を待って受け身になる必要はないし、今一番必要なのは口臭ブレスを回避する為の間合いになる。


「少しずつ下がるぞ。俺より前に出るなよ!」


 目の前では、相変わらず赤いオークがサンダーストームを浴びながらも口から吸い込むという異常な光景が繰り返される。

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