第185話.精霊達の判断

「そろそろ必要だよな」


『何が必要なの?』


「俺が全てを判断しなくても、皆に任せてもイイんじゃないか?」


『えっ、何言ってるの?いったい何をしようというの?』


「だって俺が判断するより、その方が断然早いだろ」


 それは、ゴブリンロード戦でもリッチ戦でも感じた事でもある。俺が全てを判断していては反応が遅れてしまう。それに、今後はリッチ以上の相手を想定して戦わなければならない。天之美禄ではないが、俺が判断出来ない時の対処も想定しておく必要もある。


『でも、その判断が間違えていたらどうするつもりなの?』


「誰でもって訳じゃない。俺と8·9割が一緒な考え方をしているなら、判断は任せても大丈夫じゃないか。それに探知だったり契約については、クオンやムーアにお任せだぞ。それを疑いだしたら、何も始まらないだろ」


『だって、それは精霊の専門分野よ。それ以外の事は別じゃないかしら』


「でも、俺と判断がほぼ一緒なんだぞ。それに今までも皆準備して、俺の指示を待ってるんだから、指示待ちは時間の無駄だろ」


『それでも、カショウの指示は必要じゃない。1·2割は判断が違うわけだし!』


「判断が違う事は、悪い事ばかりじゃないだろ。常に俺と同じ判断だけしていたら、成長なんてない。必ず成長には変化が必要だよ」


 久しぶりにムーアの困惑した表情を見ている気がするが、気付けばムーアだけじゃなく、クオンやブロッサ、ガーラも不安の混ざった表情で俺の顔を凝視している。


「俺と一緒じゃない判断が悪い事じゃないのは分かるか?」


 精霊達は、皆不思議そうな顔をする。明らかに頭の上には、大きなクエスチョンマークが浮かんで見える。俺の望む姿であろうとするのが、契約者と召喚精霊の関係なのかもしれない。


「俺のやり方だと、10の事が出来る。でも、それは言い方を変えると10の事しか出来ない。分かるか?」


『言いたいことは分かるけど、それとどう関係するの?』


「だから11以上の事をするのには、やり方を変えるのが1番早いんだよ。俺と違う判断の中から、違うやり方が生まれる。だけど、それには同じ判断を出来るレベルじゃないとダメなんだ。下位魔法しか使えないのに、上位魔法を使うって選択をされても無理だろ」


 えっ、という顔をするムーア。召喚精霊としての価値観が変わったのかもしれない。


「今までは俺の魔力を消費する為に精霊を探してきたけれど、これからは少し変えよう。沢山の精霊と契約出来れば、その数だけのやり方が出てくる。これからは、やり方を変える為に精霊を探すんだよ」


『カショウの言いたい事は分かるけど、責任は重いわよね···』


 契約者の不利になってしまうかもしれない。やはり召喚精霊としての躊躇いが出てしまう。


「責任なんてないだろ。俺がお願いしたんだから」


「うん、私はカショウ1番精霊。だから、何をすればイイの?」


「そうか、クオンはやってくれるのか。流石は頼りになる俺の1番精霊だな♪」


 クオンがやると言えば、他の精霊達が慌てて食い付いてくる。


『ちょっと待って。やらないなんて誰も言ってないからね。皆が分かるように説明してあげてっ言っただけなんだから!』


「カショウ、ボク達も同じだからね!」


「私は、カショウ様のお申し付けの通りに」


 影の中もブレスレットの中からも、精霊たちの熱い眼差しを感じる。


「皆協力してくれるなら良かった。それじゃあ、簡単な事から整理しよう」



「攻撃はウィプス達とルーク。主に遠距離攻撃はウィプス達で、近距離攻撃はダークに任せるよ」


 ウィプス達は明滅し、ダークは紫紺刀をかざして了承の意を示す。


「防御はミュラーとイッショ。物理攻撃にはミュラーで、魔法攻撃にはイッショ」


「俺様に任せておけば安心よ!」


 まあ、イッショがすぐに調子にのるから、その時はミュラーに締めるように言っておこう。


「探知はナルキとベル。探知スキルの使い手は多いが、それだけに情報の共有や処理能力を考えるとナルキとベルしかいない。49体の頭脳と情報共有を考えたら、この2人以上に適切な能力はないだろ」


 ベルは予想外だったのか、部家の中をパタパタと飛び回っている。


「リズとリタやナルキの腕、それに俺の魔力操作をフォローしてくれるマトリは、悪いけど俺との連携優先して欲しい。今の俺には無くてはならない能力になっている」


 俺の直轄という扱いに、リズとリタは自慢気に純白の翼を広げる。


『カショウ、私達は何をするの?』

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