第184話.寝ている間の出来事②

 ゴブリンキングの王冠。キングとしての象徴になるに相応しい能力があるのだろうが、それが何かは分からない。

 それに幾度も復活する魔物。それは何度も復活しては消滅するを繰り返しているという事で、その象徴を素直に喜べる気にはならない。

 不撓不屈の精神、復活からの再生なんて能力はいらない。それは只の、負の連鎖の始まりでしかない。


「これ、便利。役に立つの」


 両手にしっかりと持って、俺に見てくれといわんばかりに前に突き出してくる。


「だけど、クオン。ちょっと気味悪いぞ。ホーソンに言って、溶かして素材にした方が好き物を作れるんじゃないか?」


 俺がそう言い出すと、クオンの手の中で王冠がプルプルと震え出す。言葉なのか意志が伝わるのか分からないが、それ自体が気味が悪い。


「沢山、道具を運べるの」


「クオンが王冠を持っていたら、道具を沢山持てるのか?」


 クオンの眼差しは真剣そのもので、俺に伝えようと訴えかけている。しかし、言葉が足りない事もあって少し意味が理解できない。


『天之美禄で意識の無くなった後、あなたとソースイを運んだのは王冠なのよ』


「王冠が運んだって、どういう事なんだ?」


『そうね、論より証拠ね。クオン、見せてあげて!』


「分かった。ポーション、沢山持ってくる」


 今のはクオンが、王冠に命令したのだろうか。微かに王冠から魔力を感じたような気がすると、俺の腕の影からポーションが次々と出てきて、空中を漂い始める。

 そして、ポーションは円だったり星形へとフォーメーションを変える。それ自体に特に意味はないのだろうが、少しでも能力をアピールする為の方法なのかもしれない。


「これで、マトリの代わりにアイテム出しをするの。そうすればマトリも他の事が出来る」


 確かに、俺の魔法行使だけでなく紫紺の刀を作り出せるようにもなり、マトリの戦闘での役割も変わってきている。俺が考えなくてもクオンや他の精霊達も、独自に考えて動いてくれている事が嬉しい。


「分かったよ。王冠はクオンの好きにしてイイよ」


「カショウ、ありがとっ♪」


 俺の回答に、クオンが破顔する。確かに戦闘時にマトリに余裕が出来るメリットは大きいが、1つだけハッキリさせておかなければならない。


「王冠野郎!もし影の中でクオン達に何かしようとしたら、溶かして素材に変えるからな!」


「大丈夫、そんな事はしない!良い子だから、言うことを聞いてくれるの」


 俺の言葉に、クオンが答える。一瞬だけ心が凍りつくような、そんな感覚がする。

 そして王冠は、俺の言葉よりもクオンの言葉に反応して、コクンコクンの頷くように体を動かす。承諾というよりは、絶対服従を誓うように!


「そうと決まったなら、どれくらいの物まで運べるんだ?」


 今度こそ王冠は自身の性能を証明しよう、全力で力を発揮する。


「おっ、おっ」


 少しずつ俺の体が宙に持ち上がる。そして出来た俺の影の中から、ソースイの武器やクオンの収集品であるアイテムが大量に出てくる。

 恐らく影の中のアイテムなら、何でも動かす事が出来るのだろう。


 しかし一番驚いたのが、俺の体が浮かび上がった事。


「空中浮遊が出来るのか?」


『どう、気に入ってくれた?そうやって、あなたとソースイを運んだのよ』


 天之美禄の後遺症で意識がなくて、もがき苦しみ暴れまわる俺とソースイ。身体能力が高いだけに無意識に暴れまわる事で、なかなか近く事が出来ない。さらに激しく地面に体をぶつけ、自らの体を傷つけてしまう。

 そんな悪循環を空中浮遊させる事で、安全に解決してくれたのが王冠。だからムーアは王冠の事を評価しているが、当然俺はその事を知らない。


 浮遊しているが、フワフワとした感覚はなく意外としっかりとした感触がある。ゆっくりと立ち上がってみると、普通に地面に立っているのと変わらない。


「おっ、凄いな」


 思わず漏れた声に、純白の翼が現れる。抗議というか嫉妬なのか、翼を大きく広げてくる。


『リズとリタも心配しなくてもイイわよ。カショウ、歩いてみて』


 ムーアに促されて、ゆっくりと歩いてみる。すると、少しずつ浮遊している高さが落ちてくる。


『アイテムは自由に動かせるけど、生きているものは難しいのよ。空中浮遊でその場所に留まる事は出来ても、空中を自在に移動するのは難しいわね』


「それでもホバリングしなくてイイし、リズとリタの負担は軽くなるんじゃないか?」


 それならば問題ないと満足したのか、1度だけ翼を羽ばたかせると消えてしまう。

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