第186話.強みの強化
『カショウ、私達は何をするの?』
ムーアの不安気な表情。なかなか名前が出てこない事に焦りを感じ始めているのだろう。
「心配しなくても、とびっきりのを考えてあるよ」
『そうね、そうよね。とびっきりは最後よね』
「それじゃあ、開発担当はブロッサとガーラ。何かやっているんだろうけど、好きにやってイイからちゃんと報告するように!」
「ガーラ、お墨付きが出たから何でもやれるワネ」
ブロッサの不穏な言葉に、ニヤリと笑うガーラ。
ガーラが仲間になる前からブロッサが影の中で色んな事をやっているのは知っていた。さらにガーラが増えた事で、予想を超え始めるとマズいと思ったのだが···。もしかしたら俺は大きな過ちを犯したのかもしれないが、今となってはすでに遅い。許可を出してしまったのだから、どんな報告が上がってくるのかを待つことしか出来ない。
「まあ、細かい分担はここまでだな。直ぐに全部お任せってわけじゃないから、少し意識してやってみて欲しい」
『えっ、ちょっと待って、カショウ?これで話は終わりなの』
「ムーア、慌てるなよ。ここからは大きな話になるんだ」
召喚精霊として役立ちたいという想いと、召喚者の思考の一部を任せられるという責任の重さ。今までにない期待と不安の入り混ざった気持ちが、ムーアを急かし焦らせている。
「俺達がリッチを倒せたのは、1人だけの力に頼っていない所だろう」
『そうね、これだけ複数の精霊を同時に召喚している存在は、他には居ないと思うわ』
「だけど、このままだとダメなんだ!」
今までは魔力を消費する為だけに精霊を探していたが、これからは強さも求められる。
しかし、現状のままだと直ぐに強さの限界を迎えてしまうだろう。これ以上精霊が増えても統制範囲に限界がきて、精霊達の力を十分に発揮してやる事は出来ない。
俺達の強みが、皆の力を合わせたもの。だから統制が取れなくなった時点で、俺達の限界が見えてくる
それに精霊が増えれば増えるほどに、精霊達の共存関係や相性の問題も出てくる。ブレスレットの中であれば、相反する属性でも共存出来る事は分かっているが、性格的な問題も出てくるだろう。それでは、強くならないどころか弱くなってしまう。
「人間関係と同じで、精霊関係といえばよいのか?これが重要な事になる!」
『精霊らしくないし、なかなかに面倒臭い仕事よね』
「でも精霊らしくない事をすれば、それは他にない強みにもなるだろ。俺が転けても、精霊達がフォローしてくれる。それに、俺には出来ない事があるんだ!」
『何が出来ない事なの?』
俺がアシスの世界でどんなに成長しても、絶対に出来ない事は2つある。
1つ目は、自身の影の中に入る事。
2つ目は、ブレスレットの中に入る事。
だから、それらの状態を判断するには聞くしかない。つまり俺の目の代わりになって見てくれる精霊が必要になる。
「常に召喚精霊として周囲にも認知されるウィプス達、常に影の中で切り札となるクオンやフォリー、ブレスレットの中から力を行使するダークや回復を待つイッショ達。この3つが上手く連携出来れば、面白い事になると思う」
『それを私達にやれって言うの?』
「どうかな?クオンとフォリーには影の中、ナレッジにはブレスレットの中、ムーアとシナジーには影とブレスレットの中の連携を取って欲しいんだ。今までもやってくれている事の延長戦でもあるし、大丈夫だと思ったけど難しいかな?」
“難しい”という言葉に、ムーアの表情が変わる。ムーアは簡単で単純な事よりも難しくて困難な方を好み、今までも逆境に立たされた時に自然と笑みがこぼれてしまう。
そして今のムーアの口元は緩みだしているので、もう一押しだろう。
「それぞれの個性に合わせるだけじゃなく、状況に合わせたフレキシブルな選択が必要にもなるな。影の中とブレスレットの中を使い分けたり、戦略的要素が強くなって難しくなると思うけど、ムーアは嫌いかな?」
”戦略的要素”と”難しい”というムーアを心をくすぐる言葉で責めてみる。
『仕方ないわね。それなら、私にしか出来ない事ね。皆も大丈夫かしら?』
「私は大丈夫。フォリーと一緒に頑張るの♪」
「皆は2人で、僕は1人なのは不公平じゃないかい?ナルキにも手伝ってもらうからね」
「ああ、それだけなら問題ないぞ」
「···えっ、ボクだけ2つなんだけどーーーっ!」
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