第156話.触手

「クオン、スケルトンはどっちだ?」


 ”右から来る”


 クオンの言葉が、”居る”から”来る”に変わる。スケルトンの残り香はT字路一帯に充満しているが、右側の臭いの方が強くて濃い。大半のスケルトンは右へと逃げたが、そのスケルトンが戻ってきている。


 逃げたスケルトンだけならば戦う事に問題はないが、何故逃げ出したスケルトンが戻ってきたのだろうか。


 ”骨が砕ける音、追われてる”


「ここには俺達より、危険なヤツがいっぱい居るみたいだな」


「カショウ、僕達に任せてよ。1番リッターと2番リッター行くよ」


 ナレッジがそう言うと、リッターの中でも2つの塊が動き出す。


「リッターに番号付けてたのか?」


「そうだよ、よく見るとリッターでも少しずつ違いがあるんだ。1番リッターは動きが速くて、2番リッターは明るいんだ」


「いつの間にそんな事してたんだ?」


「ナルキが来てからだよ。50の頭があるからね。まだまだ色んな事が分かってくると思うよ」


 1番リッターが奥へと進み、2番リッターが光軸を調整して洞穴の奥まで照らす。1番リッターが見ている映像はコボルトの視覚スキルを通じて共有化されると、逃げてくるスケルトンの姿が見える。

 ノロノロとした動きではなく全力疾走する機敏なスケルトン達で、骨しかないのに何故か必死さが伝わってくる。

 スケルトンが嫌うリッター達の光が届いても、それでもこちらを目指して逃げてくるので、追いかけてくる方が脅威が大きいみたいだ。


「あれだけ走れるならゴブリンとしての自我は、かなり残ってそうだな」


『あのノロノロした動きはなんだったのかしら?』


「ゴブリンなりに、スケルトンらしくあろうとしてるんじゃないか?だけどゴブリン自体の知能が高いわけじゃないしな」


『そうね、脳みそも溶け落ちれば、もっと知能は下がってるはずよね』


「後ろから、危険そうなのが来てるよ。リッターは少しずつ戻ってきて!」


 逃げるスケルトンの群れを割るように何本かの触手が走り、スケルトンを絡めとっている。その触手が何なのかは分からないが、フタガの岩峰にいたワームでない。


「残念だけど、初見の魔物か」


『そんな簡単だと面白くないでしょ♪』


 こんな時のムーアの楽しむような態度に、肩の力が抜ける。俺の緊張をほぐす為の演技なのかとも思うが、あの顔を見ると違うと断言出来る。


「ムーアは、相変わらずだな」


『これでも、アシスの誕生から精霊やってるのよ。身体に染み付いた事は、なかなか変わらないわ♪』


 そして絡めとられたスケルトンが、遠ざかってゆく。本体に引き寄せられているのだろうが、まだ本体の姿は見えない。そして、代わりに天井から別の触手が降ってくる。


「想像以上に、触手が長いし数が多いな。一旦、戻るしかないだろ。初見で姿も見えない相手は危険過ぎる」


 通ってきた細い通路まで戻り、大きな通路からは50mは離れる。これくらいなら俺の気配探知が届くギリギリの範囲でもあり、少しでも触手の魔物の情報は得る必要がある。


 そして、ガチャガチャとスケルトン達の逃げる音が大きくなってくる。出来ればスケルトンには触手の魔物を引き連れて直進して欲しい。少しでもスケルトンが入ってこれないように、リッター達の光はあえて大きな通路へと漏れるようにしている。


 先頭のスケルトンは光を避けるように通り過ぎるが、5体ほど通過するとしばらく間が空く。同じ元ゴブリンのはずだが、足の速さにも個体差があるようだ。

 ガチャガチャと音はしているので、後に続くスケルトン達はいるのだが、短い間にかなりの数が減ってしまっている。何箇所からもガシャンとスケルトンが絡めとられる音が聞こえ、触手の数も数本ではない。


 次のスケルトンを待つが、それよりも先に触手が見える。通路から漏れる明かりを感じとったのか触手の動きは止まり、先端がこちらを向く。


「リッター、戻って!」


「ルーク、影の中へ!」


 俺もナレッジも、慌ててリッターとウィプス達を隠して暗闇へと戻すが、触手は俺達に気付いている。

 その間にスケルトン達が触手に追い付き、触手の横を走って行く。それでも触手はこちらの様子を伺って動かない。

 触手の先端にボワッと光が浮かび上がり、何かを確認するように上下左右に動き、また元の位置で止まると光が消える。


 微かに鼻を刺すような嫌な臭いがする。


「何か来るぞ!」

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