第155話.広がる洞穴

 洞穴を奥へと進むが、ブロッサの言葉が耳に痛い。

 今までは、アシスで生き残る事だけを考えれば良かった。少しでも精霊と契約すれば、生き残る可能性が高くなる。それだけを考えれば良かった。


 しかし気が付けば、周りに影響を与える存在にもなってしまうかもしれない。もし、タダノカマセイレのように暴走してしまったら、暴走しなくても判断を誤ってしまったら。そう考えると、これからは単純に精霊と契約するだけではダメなんだろう。

 ブロッサが覚悟を決めて進化したように、ムーアがタダノカマセイレとの契約を考え直したように、今が新しく変わる時なのかもしれない。


 そして、タダノカマセイレに言った言葉を俺自身に言い聞かせる。


 直ぐに答えは出ない。時間は十分にある。


 だけど、タダノカマセイレが回復したら、もう1つだけ付け加えようと思う。


 一人じゃない、仲間が居る!




『そろそろスケルトンに追い付いてもイイ頃なんだけど、まだ暗闇が広がるだけね』


 考え事をしながら歩いていたせいもあるが、かなりの時間が経っている。眉間にシワが寄っている時は、精霊達もソースイ達も気を使って声を掛けてこない。

 流石に長くなり過ぎたり問題があると、ムーアが止めてくれるのが何時ものパターンになる。


「そうだな。クオン、スケルトンは分かるか?」


“居ない。この先で通路、分かれる”


 スケルトンを追いかけて洞穴を奥へと進むが、スケルトンの気配は感じない。今はベルの発する音の反響を感じ取ることで、鼓動や脈拍のない魔物であっても探知出来る。

 洞穴の中では反響が多く正確な探知は難しいだろうが、あの数のスケルトンがいるかいないかくらいは十分に分かる。


「そうだな。ノロノロ向かってきたくせに逃げ足は速いのか」


『元がゴブリンなら、速く動くことも出来るのかしら?』


「骨でもゴブリンとしての存在が残ってるから消滅していないのだろうけど、問題はどこまで自我が残っているかじゃないか?何かに取り憑かれて動かされているのか、自身の意思で動けるのか?せめて声でも聞ければイイんだけど、スケルトンじゃな」


『ポップアップしたばかりのゴブリンなら、何か言葉を話すかもしれないわね』


「変な表現だけど、新鮮なゴブリンを探すしかないのか」



 そして、洞穴をさらに進むと、クオンの言った通りに通路が2つに分かれる。2つに分かれるといっても、進んできた細い道が大きな道へと突き当たりT字路になっている。

 通路幅や天井の高さも急激に広がり、丸パイプのような通路で、25mプールが収まるくらいの幅がある。その通路も延々と続いてるように見え、まだどれくらいの空間が広がっているのか想像する事も出来ない。


 空に浮かぶ島があるなら、地下に大きな空間があっても、それはアシスでは当たり前になるだろう。

 ただこの広さは、地下に潜る為に穴を掘ったのではなく、地下の空間から外へ出るための穴という方が正しいような気がする。


「万に近い数のスケルトンがいるんだから、これくらいの空間がない方がおかしいのか?」


『そうね、精霊樹の辺り一帯を飲み込める空間があることは間違いないから、これくらいは可愛いものでしょ』


「そう言われればそうだな。だけど、これだけの穴をどうやったら掘れるんだ?最初からあった空間とは思えないな」


『タカオのドワーフを丸ごと連れてきても、ここまで掘れることはないでしょう。だけどワームのような魔物がいるんだから、比較的に難しいことではないのかもしれないわね』


 フタガの岩峰で地中に埋まった巨大なワームを見ているだけに、こんな通路があっても不思議ではない。


「確かに、これくらいの穴ならワーム1体分って感じか···」


 俺とムーアの目が合い、考えている事は同じで互いに頷く。そして、それをガーラが代弁してくれる。


「正解よ、ワームの通った穴!」


 これがワームの通った穴であれば、この先のどこかに居る可能性があり、通路を先に進んでしまえば逃げる場所はなくなる。フタガの岩峰では、ブロッサの毒を仕込む時間があったから大丈夫だったが、今正面から来られれば対応は難しい。


「ワームって、どんな動きをするんだ?前にしか進めないのか?」


 皆の視線がガーラに集まる。


「どんな種類のワームか分からない。双頭のワームも居る」


“スケルトン、居る”

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