第116話.迷いの森の呪いと縄張り
俺の精霊達は、ガーラの事は“さん付け”で呼んでいる。呼び捨てなのはムーアくらいで、傲慢な態度のイッショが、“ガーラさん”と呼んだ時には驚いた。
そして、召喚の感覚を確かめるように、ブレスレットの中を出たり入ったりと自由に繰り返している。 特に俺は何も言ってないが、ムーアやシナジーと一緒の契約になっているようだ。
今は俺の横を優雅に歩いていて、ユニコーン達に甚振られていた時の自信なげな姿は何だったのかという変わりようで、凛とした雰囲気さえも感じさせる。
それでも、ユニコーン達に甚振られていた時の影響は残っているのかもしれない。
「ガーラ、身体は大丈夫なのか?何ともないのか?」
「何が?ブレスレットの中だったら快適」
「そうじゃなくて、ユニコーン達と一緒にいて怪我とかしてないのか?無理しなくて大丈夫だぞ」
「あれくらいの攻撃なら平気。問題ない」
ユニコーン達も中位の精霊で、決して力は弱くはない。本気の攻撃ではないにしても、少しくらいはダメージがあってもおかしくはない。思っていた以上に、ユニコーンとペガサスでは力の差があるのかもしれない。
そして、ガーラがこの森の精霊について教えてくれた。
シルフ、ウンディーネ、キマイラ、グリフォン、ウェンディゴ、エインセル、ヘカントケイルと多種多様な精霊が、迷いの森の周りに住み着いていて、迷いの森に近付けば近付く程に力は強くなる。
その中でも、この森で一番多いのは木の精霊達になる。雲よりも高い大木が何本もある迷いの森で、間違いなく力があるのはドライアドやトレントになる。まだ入り口に近い森では、木の精霊でも下位の精霊コダマがほとんどになる。
しかし、この森に侵入した者の情報はコダマによって一気に拡散され森全体へと伝わる。
俺が沢山の気配を感じていたのは間違いなくコダマの精霊で、ユニコーンやガーラの事、俺が見せた魔物の翼の事は、もう森中に広まっているらしい。
「ブロッサはこの森の中に居たんだよな?迷いの森には入った事があるのか?」
「私ハ無イ。コノ辺リノ毒草ガ採レル場所二ズット居タ。コノ森デ目立ツノハ良クナイカラ」
「迷いの森に近付くのは目立つことになるのか?」
「他ノ精霊達ノ縄張リガアル。神経質ナ精霊モ多イ」
ユニコーン達と戦った事だけでも、俺達の存在は十分に目立ってしまっている。その好戦的な存在と捉えられて、縄張りに近付いてくるとなると・・・嫌な予感しかしない。
「ブロッサ、このまま進んで大丈夫なのか?」
「私ガ居タ時ト同ジナラ暫クハ、ユニコーンノ縄張リダカラ大丈夫」
「ガーラ、合ってるか?」
「それで間違いない。だけど、この近くで魔物の翼を持ってユニコーンを倒した者に近付いてくる精霊は少ない」
とりあえずは争いから避けられるという安堵の思い、精霊を仲間に出来ないという残念な思いがぶつかり合う。どうしたいという結論は出ずに、出した答えは先延ばし。
「このまま、奥まで行けそうか」
「私も行った事はない。迷いの森は精霊達をも惑わす。ユニコーンくらいなら近付く事も出来ない」
「ペガサスのガーラなら、迷いの森に入れるんじゃないか?」
「やってみないと分からない」
「今まで、中に入ろうとは思わなかったのか?そっちの方が安全なんだろ」
「迷いの森の中から出てきた精霊はいない。それが安全だとは思えないし、出入りするのはエルフ族だけ」
「じゃあ、なんで精霊が迷いの森の周りに集まるんだ?」
「精霊は迷いの森の呪いにはかからない。近付いても、また元の場所に戻されるだけ。だけど、エルフ以外の種族は死ぬまで森をさ迷うことになる。だから、なるべく迷いの森に近い場所を縄張りをする」
なるべく近い場所を取るために精霊同士でも争ったりするし、同じ属性の精霊同士でも争いを起こす。それは人でも精霊でも変わらない普遍的な事なのかもしれない。
そうだとするならばハーピー達は、同族での争いがないだけでなく、クイーンに自らの身を犠牲として捧げていた。それだけを見ると、何が正しくて何が間違っているかなんて分からない。
ましてや、今の俺はヒト族と精霊に魔物までが混ざり、より複雑な存在になっている。
答えの出ない思考がループし、森の中を奥へと進んで行く。
「ソロソロ、ユニコーンノ縄張リガ終ワル」
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