第86話.霧の精霊
フタガの岩峰、そこは幾つかの隆起した岩がそそり立つ地帯。特に大きく隆起した岩峰が2つあり、1つの頂上はハーピーが棲みかとしている。もう1つは、霧が立ち込め頂上がどうなっているかは窺い知れない。
コボルトの鉱山とは違うのは、草木などは生えていない。険しい崖だけではなく、石屑が積み重なったガレ場や、小石や砂をまいたようなザレ場などを避けるように、狭い街道が通っている。
タカオとイスイを繋ぐ街道はこの1本しかない。この街道の役割りは、タカオを街の武器や防具を運ぶ事にある。しかし狭い街道と険しい道のり為に、大量の輸送は難しい。
さらには、この街道の一部がハーピーの行動範囲に入ってしまう為に、市場に出回るタカオ産の武器や防具の流通量は少なく高価のものになってしまう。
どうしてもタカオ産の武器や防具を手に入れたい者は、この狭く険しい街道を通ってタカオの街を目指す。
ハーピーの襲撃にも怯まずに、この街道を抜けれた者はタカオ産の武器や防具を身に付ける資格があり、そしてこれがステータスとなる。
そして俺達がイスイの街へ向かうという事は、この街道を通りフタガの岩峰のハーピーに近付く事になる。
少し機嫌が良さそうなムーア。やはり様々な種族が暮らす街の中より、単独で行動をしている方が好きみたいだ。
「機嫌が良さそうだな」
『そうね、ハーピーの襲撃はあるのかしら?』
「機嫌がイイのは、そっちの理由か」
『だってトラブルがある所には、精霊がいるでしょ!』
「それって、あまり良い話ではないだろ」
『だって今までがそうなんだから仕方がないでしょ。トラブルが私達を強くするのよ♪』
そして、今のハーピーは好戦的で近くを通れば戦いになる可能性は高い。
「新しい知識や技術は、私の中の常識を覆します。これは私にとって大きな転換期になります」
トラブル万歳体質な仲間が増えてゆく事に少し頭が痛くなる。
「残念だけど、ハーピーが狙うのがイスイ側なら、すぐに襲われる可能性は少ないと思うけどな」
『ええ、そうね。だけど、すれ違う旅人がいないわね』
「そうですね、タカオの街に誰も来ないのは異常ですね」
明らかな異常を感じとり、少し興奮気味のムーアとホーソン、いや密かに闘志を燃やすソースイもいる。
フタガの岩峰がはっきりと見え、道に岩が転がり始め岩峰地帯に入ってくる。
フタガの岩峰を象徴する、2つの巨大な岩峰。霧に覆われた岩峰の足元を街道は抜ける。頂上から霧が流れ落ちてくる不思議な光景。そして所々に霧が溜まる事で、旅人がハーピーから隠れる場所を作ってくれる。
霧の中に入った瞬間にクオンが異変に気付く。
“声が聞こえる”
もちろんクオンだから気付ける声で、俺達には分からない声になる。
「どこから聞こえる?」
“多分、上の方”
上と言われれば、岩峰を登るしかない。今の俺は、リズとリタの翼で簡単に頂上まで行く事は出来る。
『確かめましょう♪』
「そう言うと思ったよ。今回は目立つとハーピーに見つかるから、ソースイとホーソンは留守番だけどな!」
悲しそうな目をする2人だが、時間に余裕は無い。これ以上は相手していると、本当の異変に対応出来なくなる。
ハーピーの棲む岩峰の死角になる位置まで移動して、純白の翼で一気に頂上を目指す。
そして頂上行く程に、もっと深い霧が立ち込めている。クオンと俺の探知がなければ、先に進む事は出来ない。
そして探知スキルで頂上に到達した事を確認した瞬間、立ち込めていた霧が割れる。
「何っ?」
しかし、探知スキルでは何も感じ取る事は出来ない。
目の前の霧が晴れ、開けた空間に再び白いモヤがかかる。白いモヤは次第に1ヵ所へ集まり、濃くなってゆく。そして徐々にヒトのような形となり、頭や手足がハッキリと見え出す。
最初はヒト型となり、そこから耳が尖りエルフ型、次は耳や尻尾が生え獣人型と、次々と姿形を変える。
『挨拶なら許してあげるけど、ウチのカショウを勝手に誘惑しないでくれるかしら?』
白いモヤは最終的には、エルフの形で落ち着く。
「好みの形になった方が助けてくれる可能性が高くなるでしょ」
「もしかして、精霊なのか?」
「はじめまして。私は霧の精霊よ。私を助けてくれれば、あなたの理想の形になってあげるわ」
そう言うと、頭にケモミミが出てくる。
「どうかしら、ケモミミエルフよ♪」
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