第87話.結界
ケモミミエルフに、ほんの少しだけ見惚れてしまった。色々な価値観があると思うが、ケモミミとエルフのファンタジーの組み合わせは新鮮だった。
「偽物、許さない!」
ヒト型のクオンが影から出てくる。あまり影から出てこないクオンが、さらにヒト型で出てくるのは珍しい。少しだけ見惚れたのが伝わったのだろうか・・・?
「あら、可愛いネコミミさんね。残念だけど、あなたのケモミミが1番よ」
「ふん、そう、分かってるならイイ」
そう言うと、影の中に戻るクオン。一瞬だけ、えっという顔を見せたムーア。
『どうしたいの?話は聞いてあげるけど、私はクオンみたいに簡単にはいかないわよ』
「これを見て欲しいの」
少しだけ霧が晴れ、前が見えてくる。そこには石の杭が何本も打ち込まれ、それぞれが鎖で繋がれている。石の杭は初めて見るが、鎖は何度も見てきたし触れてきたもの。
「ムーア、これって結界?」
『そうね、精霊を閉じ込める為の結界で間違いないかしら?』
俺達の言葉に、目を閉じ黙って頷く霧の精霊。
「この中には、沢山の霧の精霊達が閉じ込められているの。この岩峰は霧が発生しやすい場所で、沢山の精霊達が住んでいるわ。だけど、今は全てこの結界に閉じ込められているの」
『精霊の魔力が吸い取られ、そしてハーピーが生まれる』
「そうよ。私は結界の外に魔力が漏れないように抑えているの。魔力が漏れなければ、ハーピーは生まれないから」
「ハーピー達は襲ってこないのか?」
「ハーピー達は見えない場所を嫌い、霧の中には入ってこないわ。それに結界は他にも複数あって、ここはその中の一つに過ぎない」
状況が分かってきたところで、ムーアが仕切り直す。
『じゃあ、私達にどうして欲しいの?』
「私は霧の精霊。結界を壊すような力は無いわ。それに結界の下にはワームがいて、結界が破られた瞬間にワームも動き出すはず。あなた達なら可能でしょ」
ゴブリンやコボルトの時も、石柱自体は壊せば終わりで、こんなに連動した仕掛けではなかった。
『カショウなら、出来ない事はないわね』
「もちろん、助けてもらえれば召喚契約には応じるわ」
『だけどね、カショウを誘惑する精霊が増えるのは問題かしら。精霊達の関係にも悪影響を与えるのよ』
「私は霧の精霊よ。触れたものの形を記憶して真似する事が出来るわ。でも、あくまでも霧で実体はないわ」
霧の精霊が俺に手を差し出す。その手を取ろうとするが、少しだけ冷たい感覚がしてすり抜けてしまう。
しかし、誘惑する精霊に対してムーアは厳しい。霧の精霊に対してなのか、俺が少し見惚れたのが原因なのかは分からないが、もちろん聞けるわけないが・・・。
『だから安心って訳ではないでしょ』
「これは霧の精霊のスキルの一部よ。このスキルの本質は、魔力濃度を操作する事!」
霧の精霊が、ムーアを見つめる。そして、また俺は置いていかれた気がする。
『分かったわ。仲間は少しでも多い方がいいわね。カショウ、さっさとワームを片付けましょ!』
「お、おうっ」
急に方針転換したムーアに、言葉が詰まって出てこない。とりあえず今は、目の前の事に集中しよう!
円形に石の杭が打たれ、それに鎖が繋がっている。恐らく石の杭は、石柱と同じ役割りをして、精霊から魔力を吸収している。そして鎖が、精霊を閉じ込める結界の役割りを果たしているのだろう。
ワームの気配は感じられないが、地面からは魔物の臭いがする。結界を壊した瞬間に、下からワームが出てくるベタな展開だろう。
「結界の中の精霊とは話せるのか?」
「ヒト型になれない精霊達ばかりだから会話出来ないけれど、意思の疎通は出来るわよ」
「それなら、結界の上に集まるように伝えてくれないか」
俺がそう言うと、影からブロッサが出てきて結界に近付いて行く。
「分かったわ、だけど何をするつもりなの?」
『それは、ちょっと卑怯じゃない?』
「私二全テ任セテモ大丈夫ヨ!」
やる気十分のブロッサが、結界が中に毒を撒き始める。念には念を入れて、今回はそれだけじゃない。
「フォリー、頼んだぞ!」
「かしこまりました」
地面に向けて左手を翳すと、フォリーがシェイドを放つ。そして右手に持つゴブリンキングの杖に魔力を流し、杖の周りに風を纏わせる。
シェイドで地面が砂に変えられ、その砂を風で吹き飛ばし、結界の下に潜り込むように大きな穴を開ける。
そこに出来た穴に、ダメ押しとばかりにブロッサの毒を流し込む。
「準備完了だな!」
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