第85話.次の一手

 誰にも見つからずに西門から街を出ようと思ったが、流石に今日は門番がいる。防衛隊副隊長のドローも忙しく指示を出している。ハーピー襲来への対応もあるが、瓦礫の撤去や捜索作業に怪我人の救護などと、やるべき事は多い。


 ドワーフや獣人、オニ族が多い中で、ヒト族の俺は目立ってしまう。ローブで身体全体を隠せば、それはそれで目立ってしまう。

 顔を覚えられたくないという消去法で、ローブを纏って歩いていたが、ドローに見つかってしまう。


「カショウ殿じゃないですか?」


 聞こえないふりして立ち去りたいと思ったが、辺りの全員が俺の方を見るので立ち止まるしかない。


「領主様より、見かけたらお連れするようにと言われているのですが、どこに行かれるのですか?」


「どこと言われてもな。精霊探しの旅だからな。精霊がいそうな場所が見つかれば、そこに目指すだけ。それが街なのか森なのか山の中なのかは分からないよ」


 そしてドローがホーソンに気付く。


「確か、ホーソンといったかな?お前も付いて行くのか?」


「ええ、店が倒壊して死にかけている所をカショウ様に助けられました。死にかけて始めて、私のやりたい事が分かった気がします。恩を返すた為もありますが、私もカショウ様の従者として旅に出る事にしました」


「領主様より、被害のあった者へは保護がある。その話だけでも聞いていったらどうだ?決して悪い話ではないと思うぞ」


 とにかく俺達を引き留めようしているのが見え見えで、領主の館へと連れていこうとしているのが分かる。


「残念だけど、迷い人の俺は時間が無いんだよ。精霊を探しているのも、俺自身が生きるため。残念だけどタカオの街で、今の俺が得られるものは無かったんだよ。もう少し成長すれば、変わることもあるかもしれない」


「領主様なら、まだ何かの情報は持っておられかもしれませんよ」


「ドロー、俺達に魔物と戦わせて遠くから見ているのは何故なんだ?その駆け引きの時間が、俺には勿体ない事なんだよ」


 少し大きめの声で、周囲に聞こえるように話をする。ハーピーが立ち去った後も、すぐには助けに来なかっただけに防衛隊への周囲の目は冷たい。


「分かりました。何かあれば、領主の館をお訪ね下さい。いつでも取次ぐように言っておきますので」


 周囲の雰囲気を感じ取ったのか、素直に引き下がってくれるドローに安心する。逆に俺達を門へと案内し、スムーズに門を通ることが出来る。


 俺達がどこへ向かうかは監視されているだろう。しかしタカオの街から行ける場所は、ヒケンの森、鉱山地帯、そしてハーピーの岩峰やその先にあるイスイの街しかない。


 タカオの街が小さくなり辺りの気配も無い事を確認して、精霊達が出てくる。


「ホーソン、マッツの目的はドワーフの職人を集める事じゃないのか?オルキャンの時代から、内壁の中では何かが行われているんだろ。今回は保護という名の徴収じゃないのか?」


「領主様に繋がりのある店は、昔ながらの鍛冶職人は少ないです。鉱山で新しい金属が見つかり、それを混ぜる事により武器や防具の性能が大幅に上がりました。しかし、繋がりのある店にも、それを是としない職人も多くいます」


「今回の被害にあった店は、昔ながらの職人が多いという事なのか?」


「そうです。そういった職人が多い店の損害が特に多く、ただの偶然とは思えません」


「その事に気付くドワーフ達もいると思うか?」


「多くはないでしょうが、いると思います。タカオの街全体では、昔ながらの職人は少数派で、大半は領主様の恩恵を受けている店ばかりです。そして西区には、少数の職人気質のドワーフが集まっています」


「ホーソンは、どっち派なんだ?」


「私は学者肌なので、私自身が鎚を振るう事はないですが、新しい未知の金属を知らずに使うのには怖さを感じます」


『じゃあ、ハーピーはドワーフ達に利用されたの?』


「ムーアも言ってただろ。ドワーフ族と蟲人族が並んでたら、狙うのは蟲人族だって!」


『ドワーフとハーピーの利害関係が一致して、連携した行動を見せたというの!そんな事が本当に起こるのかしら?』


「銀髪の男が、ドワーフとハーピーを繋ぐ存在なのかもしれない」


『それなら、私達はどう動くのかしら?』


「ハーピー達は止めれるかもしれない。それに、ハーピークイーンが古の滅びた記憶を持っているのは間違いない。だったら向かう先は1つだろ」

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