第60話.ダークの実力
結果としてはムーアの予想通り。コボルトが待ち構える部屋に足を踏み入れたことになる。
一応確認の為に、部屋の外からコボルトにサンダーボルトを打ってみたが効果はない。間違いなく部屋に入った瞬間に動き出すだろうと仮定して、二手に別れて対応する。
右手のコボルト5体は、ウィスプ達とソースイの4人の何時ものメンバーで連携はバッチリ。
左手のコボルト5体は、ダーク、ムーア、ブロッサ、俺の4人。ダークの強さがどの程度なのかを見るのも目的の1つ。ウィスプ達の明かりから少し離れる為に、火オニの短剣に魔力を流し松明代わりにしている。
ダークと頭上のウィスプが先頭になる形で、小部屋に入る。入った瞬間ではゴボルト達は動かない。コボルトの様子を伺いながら、一歩また一歩と確認するように前に進み、部屋の中央まで進む。
微かに空気が震え、その瞬間コボルト達の唸り声が響く。しかし、唸り声を上げたのは失敗だった。少しでも早く動くべきで、失敗を後悔することさえも出来ない。
声を聞いた瞬間よりも早く、振動を感じ取ったタイミングでダークが動き出す。
光の無い闇の中ではヴァンパイアの力は強化される。膂力は強く、かといって力任せの攻撃ではない。何の迷いもなく緩やかな曲線を描いてゴボルトに近寄る。片手に持つのはドワーフの資材置場で回収したツルハシ。一振で2体のコボルトが吹き飛び、2体のコボルトにぶつかり尻もちをつかせる。
殺してしまえば身体は消滅してしまい、吹き飛ばす事は出来ない。計算された力加減にスピード、立ち位置と全てがコントロールされた一撃。
更にはツルハシを振り抜いた勢い殺さず、身体をコマのように回転させ、立っているコボルトに近付く。
慌ててショートソードを抜いたコボルトだが、時すでに遅し。ダークが投げたツルハシが胴体を貫く。
コボルトの身体は消滅するが、手に持っていたショートソードは落ちない。ダークが空中でショートソードを掴むと、尻もちをつかせたコボルトを仕留めていく。
ダークがこちらを振り向くと、ちょうどソースイが最後のコボルトを倒したところ。僅かにダークの方が早かった事になる。
正確にはウィスプ達がサンダーボルトで一人ずつ倒し、残る2体を相手にしたのがソースイ。機動力や遠距離攻撃の関係で、活躍の場が中々巡ってこないソースイに忖度した結果になる。
つまりソースイが2体を倒すより、ダークが5体倒す方が早かった事になる。
「いかがでしょうか?」
コボルトからショートソードを回収して、二刀流になったダークが聞いてくる。
「分かってて聞いてるだろ。実力は良く分かったよ」
少しドヤ顔のダークに、情けない顔のソースイ。
「ドヤ顔は似合わないし、後でフォリーに説教されるぞ」
フォリーが武器の回収に影から出てくると、急に表情が険しくなるダーク。力関係は妹のフォリーが上だと良く分かる。これなら、ダークがやり過ぎる事もないだろう。
「それじゃあ、奥の部屋を除いてみるか」
真っ暗な部屋に、ウィスプ達の光が差し込む。部屋の中央には土が盛られ山のようになっている。見上げたその先には、オオザの崖の洞窟でみた石柱。そして、鎖で縛られた精霊の姿。
「チョット、待ッテ」
ブロッサが何かに気付き、部屋の隅を指差す。そこには、大量のコボルトの姿。部屋の奥までは見えないが、100体は居るだろう。
「クオン、気配を感じるのは、山の頂上の精霊だけか?」
“それだけ”
「これも、恐らく襲ってくるやつだよな・・・。リスクを考えると引き返す方法もある」
『ここのコボルトをポップアップさせたのが、あの精霊なら中位精霊であることは間違いないわね』
ムーアが悪戯っぽい笑みを浮かべて、痛い所突いてくる。ここで見ない事にしてしまえば、今は助かるだろう。しかし精霊が消えてしまえば、俺がアシスで生き残れる可能性は低くなる。
「やれると思うか?」
『もう少し信用したらどうなの?コボルトは下位の魔物よ。これくらいで逃げてたら、ずっと逃げることになるわよ!』
「そうだな、慎重になり過ぎだな。皆が俺より優秀だって事を忘れてたよ」
そこにダークが割って入ってくる。
「私は、まだまだ本気を出していません。それに私が言うのも何ですが、フォリーも十分戦力になると思います」
『ねえ、あなたは私達を守りたいかもしれないけど、私達をはあなたを助けたいのよ。それは忘れないでね』
「ああ、分かったよ」
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