第61話.大部屋の戦い

「ハンソ、出番だぞ」


 久しぶりにハンソを召喚する。本当は召喚したままの方が良いが、クオンの影の中はダークを除いて女の子が多いので少し気を遣う。


「エトッ」


 自信無さげに現れるハンソ。指先に爪は無いはずだが、左手の人差し指の先端を摘まんだり引っ張ったりしている。


「ハンソ、聞いてたか?」


「エトッ、エトッ」


 ハンソの良き理解者であるソースイを見ると、首を横に振る。


「そうか、今からコボルトが大量に居る大部屋に入る。部屋の前に障害物になる岩を出してくれ」


「ントッ、ントッ、ントッ」


 ハンソを目をパチパチさせ、再びソースイはハンソは理解していないと首を横に振る。


「ソースイ、後は任せた!」



 大部屋の入口に岩を並べて、簡易的な壁を作る。もし対応出来ない数のコボルトが出てくる場合は、一旦小部屋まで待避する。コボルトが小部屋へ侵入してくる数を抑えたり、遅らせる目的もある。


 小部屋と同様で、部屋の中央まで進むとコボルトは動き出すのか?それとも一定距離を進んだら動き出すのか?


「中央の精霊を助ければ、コボルトも消滅してくれるなら簡単なんだけどな」


『全方位から囲まれるじゃない。それなら、選り取り見取りだけど、そんな趣味だったかしら?』


「そんな趣味はないし、俺は理屈っぽくて細かい性格なんだろ。それなら地道に右端から攻めるよ」



 大部屋の中に入って初めて、全貌が見えてくる。部屋は円形の大きなドーム型。8本の大きな柱が天井を支えている。しっかりしているとは断言出来ないが、崩落したような箇所は見られない。


「コボルトが大量に居ても、ここは廃坑の最奥ではなさそうだな!」


『そうね崩落が起こってポップアップが始まったなら、ここは手が加わったままの姿を残しているわ。最奥のラスボスでは無いわね』


「ラスボスじゃ無いなら、余計に負けれないか!」


『気合いが入ったなら、さっさと済ませましょう』



 小部屋の時と同じで、ダークがコボルトの動きを察知して先に走り出す。


「ウォオオオッ」


 最初のコボルトの唸り声が、隣のコボルト、そのまた隣のコボルトへと連鎖する。


「ルーク、ダーク、先へ進め。残りは任せろ!」


 ウィスプ達は、まだ唸り声の上がらないコボルトへと向かい、ダークは壁沿いを進みながら、唸り声を上げ始めたコボルトに襲いかかる。しかし、移動速度が落ちないように、ある程度は無視して先へと進む。


 ダークが残したコボルトは、ソースイとムーアが倒し、俺は明かり役。見えないコボルトは、ブロッサが位置を教えてくれる。


 移動速度の遅いハンソは遊兵になってしまう為に、久しぶりの出番だったが召喚解除。タイミング良く、コボルトの中に突っ込ませて、活躍の場所はつくってやろうと思う。


 ちょっと存在が薄くなってぶう垂れるベルは、しっかり者に変わってきた。見えない位置に居る精霊達でも、クオンと協力して会話が途切れる事はない。


 可能な限り先回りしてコボルトが動きだす前に潰したいが、コボルトの唸り声の連鎖は止まらない。


“コボルト、全部”


 そしてクオンが、全てのコボルトが動き出した事を告げてくる。進んだのは部屋の外周のまだ3割程。しかし引き返すには進み過ぎている。


「行けるところまで進め!」


 ウィスプ達が編隊を組み、その後をダークが追いかける。後ろから追いかけてくるコボルトは2割程で、ウィスプ達が相手にする数と比べれば少ない。それくらい俺たちが引き受けなければ、流石に不甲斐ない。


 ハンソをコボルトが来る最前面に召喚する。


「ハンソ、コボルトが来る。岩を投げ続けろ!」


「ントッ、ントッ、ントッ」


 流石にハンソでも状況が分かったのか、一心不乱に岩を投擲すると、何個かはコボルトに直撃する。ハンソの岩が直撃している所を見ると、コボルトもそこまでは見えていないのかもしれない。そしてハンソの岩を避けても、ムーアやブロッサの攻撃に倒れて数を減らす。全てを避け到達する数は少なく、待ち構えたソースイで十分に倒せる。


 明かりは俺の持つ火オニの短剣か、ウィスプ達の光のみ。コボルトなら嗅覚も鋭いような気がするが、明かりを持つ者に集まってくる印象で、タカオの街の近くで戦ったコボルトと違い、組織だった行動は出来ていない。脅威度としては、明らかに1ランクは下がる。


 ウィスプ達とダークの方も一方的な戦いを繰り広げている。ウィスプ達の光に群がろうとするコボルト。それに対して、ダークが闇の中から襲いかかる。


「ミスト」


 ダークが呪文を唱えると、身体が霧となり散らばっていく。霧の一部は時には剣となり、時には槍となり、コボルトを消滅させる。ウィスプ達に辿り着かずに消えたコボルトの方が多い。


“何か来る”


 コボルト達をほぼ殲滅すると、クオンが新たな気配を探知する。分岐点以降、坑道は1本道で向かっているのはこの部屋しかない。


「ソースイ、精霊を助けるぞ。ハンソ、岩を崩して入口を塞げ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る