第58話.廃坑への侵入
坑道の入口は、先の見えない横穴から始まる。俺とソースイ、ムーアが並んで歩いても大丈夫は広さがある。
採掘した鉱石などを搬出する為に、出入口はそれなりの広さがあるが、奥に行けば次第に道幅や高さも低くなるし、縦穴も出てくるはず。
そして、坑道の奥へとコボルトの匂いが続いている。
「100年以上前に廃坑になっているから、いつ崩れてもおかしくはないよな」
『そうね、あまり楽しい感じはしないわね』
「クオン、少しでも変な音がしたら教えてくれ」
“うん、分かった”
ファンタジーな世界のダンジョンでの戦いとなれば、崩落の心配は無いのかもしれない。しかし、ここは過去に何度も崩落事故が起きた鉱山。
そして注意点が幾つかある。
ソースイのグラビティ。いつ崩落するか分からない坑道での重力操作は危ない。グラビティだけじゃなく、ゼロ・グラビティも同様。微妙なバランスで保たれている坑道があるかもしれない。
ブロッサの毒攻撃。これは坑道内に毒が充満してしまう。直ぐ毒は無効化出来るが、遭遇戦や乱戦では使いどころが限定される。
ウィスプ達のサンダーボルトは大丈夫だろうけど、坑道にはあまり衝撃を与えたくない。1度コボルトと戦っている為、込める魔力はなるべく加減する。
完全に陽の光が届かない場所まで来た時に、影からヴァンパイアが現れる。フォリーを先頭に後ろにダークとマトリ。ヴァンパイアのリーダーはフォリーなのだろう。
「カショウ様、暗闇の中であれば私達の力もお役立て下さい」
「ゴブリン達に捕らわれていたリズやリタはまだ回復していない。無理して働かなくても大丈夫だぞ。アイテムルームから品出ししてくれるだけで十分役に立ってるしな」
と答えたが本当は、見た目が小学校高学年の子供に戦わせたくはない。
「陰属性は、光の中では存在出来ない分、闇の中では力が強化されます。私達の力をお見せします」
そう言うと、ダークが前に出てくる。片手にはドワーフの廃屋から持ってきたツルハシがある。近くの岩に軽く振るうと、真っ二つに割れる。そして拳大の破片を拾うと、片手で握り潰してしまう。
次はフォリーが右手を前に出し、呪文を唱える。
「シェイド」
黒い玉が飛び出して岩に当たる。特別に凄い音や衝撃があるわけではないが、岩は砂の塊であったかのようにボロボロと崩れ落ちる。
「マトリは、魔力付加が得意になります。カショウ様のローブへはマトリが魔力供給を行わせて頂きます」
確かに凄い力は持っているが、闇の中でしか行使出来ない限定された力。
「他にも、能力とかスキルはあるのか?」
「血を魔力に変換し、その魔力を供給する事が出来ます」
ニッと笑って犬歯を見せてくる。その笑顔に引き込まれてしまいそうな感覚になる。何も言わないが、これも能力の一部なのかもしれない。
「ただカショウ様は魔力を消費する事が目的なので、このスキルは使うことはないと思います」
「可能性は少ないかもしれないが、知っていて損することはないと思うぞ。それと光のある場所には全く出られないのか?」
「1分くらいが限界で、それ以上は存在を維持出来ません」
「影の中とか、ローブの中から攻撃するのならどうだ?」
「ローブの中から魔法を放つ事は可能ですが、光が当たれば威力は大幅に減衰してしまいます」
「それならアイテムルームから品出しをしながら、影の中から援護してくれるだけでも大丈夫。今は誰が味方で、誰が敵なのかも分からないから、隠せるものは隠しておきたい」
「僕たちは、闇の中なら誰にも負けない!正々堂々と戦えば、どの種族にだって勝てるんだ」
影の中が不満なのが戦いたそうなダーク。
「ダーク兄さん、これはカショウ様の命令です」
「だって僕達は、闇の中なら戦えるんだぞ!」
「なあ、闇の中だけどゴブリンに捕まってたんじゃないのか?」
「それは、相手が卑怯だからだ!」
「どこでどうやって戦うかを決めるのも、相手の力量。相手の戦略に嵌まっただけじゃないのか?」
「違う、そんなんじゃない!人質を取った卑怯者なんだ」
感情的になってしまうと、冷静に理解する事は難しくなる。
「分かったよ。ダークは坑道内では一緒に戦ってもらうが、その代わり実力は示してくれ。フォリーとマトリは影の中から支援。俺達の奥の手になってもらおう!」
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