第57話.コボルトの山
装備が整い次第タカオの街を出る。タカオの街の北にはコボルトの生息する鉱山がある。今は廃坑とされているが全く採れない訳ではないらしい。
鉱山までの道はあるが、廃坑となってからは通る人もおらず、道の跡が分かる程度にしかない。
元々はドワーフ達が様々な金属を求めて掘ったのが始まり。坑道は長く複雑になり、そして何度かの崩落事故が起こる。それでも、ある程度の採掘量がある鉱山には幾つもの坑道が掘られた。
そして、この鉱山が廃坑になる事件が起きた。これまでで最大規模の崩落事故が起こるが、そこからコボルトのポップアップが始まる。
幸いな事に、コボルトは鉱山から出てくる事がない。そこまでの事態が起きてドワーフ達は、やっとこの鉱山を廃坑にする事を決める。それは先代タカオ領主の時代の話になるが、それでも100年以上も前の話になる。
『どうしたの?やけに詳しいわね。』
「ムーア達がブレスレット争奪戦している間に、ドワーフの店員から話を聞いたよ」
『そ、そうなの。私はイイんだけどね、リズやリタ、アイテムルームから出れないフォリーやマトリも居るでしょ。私が皆をまとめないと大変なのよ』
そう言いながら、ブレスレットが付いた手首を隠す。
「召喚解除したら、アイテムは持ち込めないだろ?」
『アンクレットが増えた影響なのか、身に付けてる小さなアイテムくらいは持ち込めるようになってるわよ。短剣も大丈夫そうね』
ウィスプ達を見てみると、首にチョーカーを付けている。あれっ、ソースイも選んでるのか。
「それなら、ブレスレットに俺達パーティーの印を入れよう。コボルトの鉱山は、まだ鉱石は取れるし、気持ち程度だけど何かの能力付与をしてもらってもイイな」
不用意な言葉に、精霊達の目付きが変わる。何か触れてはいけない事に触れたかもしれないが、やる気を出してくれたのは間違いない・・・。
道の分岐が見えてくる。ラップがコボルトの鉱山に向かった事もあり、まだ新しい跡が残っている。草の生い茂る道だが、これならば迷うことはない。
「精霊の匂いが消えた」
『やっぱりゴブリンの時と同じかもしれないわね』
「今回は鉱山と街も近いし、タカオの町には加護の結界も無いから、何か起これば影響も大きいかもしれないな」
すでにコボルトの群れが鉱山から溢れているのか、鉱山の中に留まり続けているのかは分からない。クオンの探知には掛からないが、動物や獣の気配もなく静か過ぎるのが不気味に感じる。
山の麓が見えてくるが、状況は変わらない。かつて使われていた家屋が見えてくる。ドワーフが作った家屋だけあって、今でもしっかりと形を残している。
家屋の外壁や屋根には蔦が絡みついているが、窓や扉には蔦が絡んでおらず、最近使われた形跡がある。ラップ達が使ったかもしれないが、いつコボルトが出現してもおかしくない家屋を使うとは考え難い。
さらに近寄っても生き物の気配は感じられず、扉を開けてみる。
今探知出来るのは、気配だけではない。ゴブリンキングから吸収した嗅覚が、そこにあった生き物の名残を感じとる。
「コボルトじゃない、魔物とドワーフの匂い」
『何かは分からないけど魔物とドワーフが繋がってるのね。マッツとコボルトが繋がるなら、タカオの全てが繋がっていると見て良いわね』
「俺達の情報は知られたくないから、タカオの街を早く出たのは正解だったな」
俺の嗅覚や、セイレーンの翼、ヴァンパイア姉妹と誰にも知られていない情報は多い。
『臭いで痕跡を追うことは出来るの?』
「部屋の中で、こもった臭いだから分かるけど、もう外の臭いは分からないな」
『それじゃあ、今は近くにはいないって事でしょ。他の家にも何か無いか探してみましょう』
「そうだな、手掛かりは掴めるかもしれないな」
他の家屋についても調べてみる。少しだけ勇者の気分を味わう。他の家屋は4・5人程度で泊まるような家で朽ちてはないが、部屋の中は荒らされたように散らかっている。
1番大きな建屋は資材置場や倉庫で、鉱山から取れた鉱石の保管に使われていたっぽい。どこまで使えるかは分からないが、ツルハシやハンマーなども置かれたままになっていたから、一応回収はした。
残るは、山の中か鉱山の中。クオンの探知スキルとウィスプ達の哨戒で調べてみるが、特に変わった様子は見られない。コボルトの群れは、鉱山から溢れ出ている事は無いようだ。
「残るは、鉱山の中になるか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます