第43話.崖の上の何かを求めて
リタを最短で救う為、ルーク達は魔力を使いきって、今はチャージタイム中。一旦使いきってしまうと、魔力回復に時間がかかるらしい。
当初の予定とは大きく変わり、オオザの崖まで探りを入れるつもりが、キャプテン4隊にジェネラル2隊はやり過ぎたかもしれない。
そして、一番の痛手がムーアのチャージタイム。1日は召喚出来ないと言っていたが、会話する相手が居なくなるのは辛い。
会話する事で、考えがまとまったり、違う考え方が見えてくる事もある。1人だと、どうしても自分の考えに不安や迷いが出る。その一瞬の躊躇いが致命的な結果を招くかもしれない・・・と、ネガティブモードに入ってしまう。
やっぱり、考え過ぎは良くないよな。
今やるべきことの選択肢は少ない。ゴブリンとの接触をなるべく避けつつ、オオザの崖を目指し北上するしかない。
ドワーフの道は、ゴブリンの移動手段にも使われている為に遭遇する可能性が高い。最初に遭遇したゴブリン達の装備品は、残したまま。つまり、何者かによって倒された事がバレるのは時間の問題。
1日進んだところで、崖が見えてくる。
最初の祠の西側に見えた高さ5百mの崖は南北に走っている。北側に走った崖は東に曲がりオオザの崖へと続く。オオザの崖からは階段状になるが、ここから崖の終わりは見えない。
それに階段状になっているといっても、一段が100mあれば簡単に登れるわけではない。
崖を見上げて、どうするかと思案にくれる。
『やっと動けるわ』
チャージタイムが開けて、ムーアが現れる。
「次からは、使いきるなよ!」
『分かってるわよ。だけど、ちょっとロマン感じたでしょ♪』
「やり過ぎたら、後で問題になるからな!」
『で、登るの?登らないの?』
「他に選択肢は無いのか?」
『あこまでジェネラル相手に派手にやったら、しばらくは警戒されて潜入なんて無理でしょ。ダメと分かってて、ダメな事をやるの!理屈っぽいあなたは、そんな事はやらないわね!』
「はっきりと言うな。その方が、気持ちがイイけど」
『褒めてくれなくていいわよ。ゴブリンが行けない所なら、まだ何か可能性があるんじゃないの?』
「そうだな、魔物がいない場所なら精霊が残っているかもしれない。状況が変われば、選択肢も変わる。問題は、ここを登れると思うか?」
『貴方のマジックシールドで足場作っていけばイイでしょ!』
「1つ間違ったら、真っ逆さまだぞ!」
『その時は、私が助けてあげるわよ』
ムーアが、土オニの短剣を見せる。
ダイヤ型のマジックシールド4枚を4分割して16枚。楔にして崖を登るが、1つ間違えば真っ逆さま。
探知スキルを使うようになって、これくらいの魔力操作は問題になく出来る。探知スキルを使うようになって、マジックシールドなどの物質化魔法の性能が格段に向上した。
しかし、プレッシャーが半端ない。それにベル、お願いだからソースイの頭に止まるのは止めてくれ。集中力が乱れてしまう。
そして、1段目の終わりが見えてくる。ルークとベルが先回りして、安全な事は確認している。
後10m、5m、2m、1m、そして手が届く!
そこに広がるのは、2百mくらいは開けた空間。そして何も無い岩場。
ベルも何も無いと言っていたし、下から見ても草木も見えないから、想像通りの結果。
「やっぱり、何も無いな」
『どうする、もう一段上に登る?』
「崖の上は上位種の魔物が出てくるんだろ。今は一段ずつ調べて行こう」
『その話は誰から聞いたの?』
「ライの爺さんだよ」
『ふーん、そんな話だったかしら?まあ、いいわ。上に登らないなら、オオザに向かのね』
「そうだな、ここからオオザを目指そう」
“オオザの崖”と呼ばれるには理由がある。断層の中でも、ここの一画だけは大きな一枚岩となっている。そして岩の上には、30mの巨石が乗っている。巨石の半分以上が崖から飛び出し、落ちそうで落ちない岩が目印となり、特別な名称として“オオザの崖”と呼ばれている。
オオザの崖の巨石が見えてくる。ここまでは特に変わった事はない。ただただ岩場が続くだけで、精霊の姿だけじゃなく痕跡も見当たらない。
「それにしても、でかい岩だな」
『ん、あそこに何か居るわね』
岩の後ろから声が聞こえてくる。
「ント、ント、ントッ」
身長は俺より少し高いくらい。岩のようなゴツゴツとした肌。ゴーレムよりはスリムな体でヒト型に近い。
「もしかして精霊?あれは何やってんだ?」
『岩を落ちないようにしてるんじゃないの?』
「もう一段上に登ってみるか?」
『無視したら、可哀想よ。健気じゃないの?』
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