第42話.セイレーンの姉②

 もう少しで東の湖が見えてくる。西の湖から東の湖まで、約2日の距離。捕らわれているセイレーンに残された時間は少ない為、ほぼ休まずに移動を続けている。


 ゴブリンジェネラルだけでなく、石柱も破壊した。流石にここまでの変化が起きれば、異変には気付くはず。そして、何かしらの動きが出るまでの間に、東の湖のベルの姉を助ける。


 移動中も、ベルは姉の事について質問攻めにあっている。リズは、三姉妹の長女。ベルが産まれた時は今の姿ではなく、上半身はヒト型で下半身はトリ型だったらしい。

 あまり人前に出ることは好きではなく、この湖を棲みかに決めてからは、進化し今の姿になっている。

 性格や好きな物、嫌いな物など、根掘り葉掘り聞かれている。人嫌のくせに俺への態度から、危険人物認定されたようだ。


 ブレスレットに吸い込まれてからは、リズは静かにしている。中で眠ったように動かない。だが存在しているのは確か。


 ムーアの話でも、かなり消耗が激しく回復には時間がかかる。それは、1週間かもしれないし、1ヶ月かもしれない。どれだけ時間が必要かは分からない。



「着いた」


 クオンが知らせてくれる。


 東の湖の周りは、草が生い茂らない岩場で、岩を積み上げて拠点をつくっている。今までと違ってゴブリンジェネラルを目掛けて一直線とは行かない。狙撃するにしても障害物も多い。


「用心深いな」


 そして岩場から頭を覗かせているのは、2m以上はあるゴブリン。ゴブリンジェネラルには間違いないが、ローブを被っているうえに身長以上の大きな杖。まさかの魔法使いタイプ。


『どうするの?』


「時間をかけて少しずつ削るか、それともブロッサのポイズンミストで壁をつくって・・・短期決戦は難しいな」


『ちょっと試したい事があるんだけど、イイかしら?』



『皆、行くわよ!』


 ルーク・メーン・カンテの3体が正三角形の配置になる。一番上の頂点がルーク、下にメーンとカンテが並ぶ配置。


『士気高揚』


 ムーアの全力を込めた魔法で、ウィプス達の能力を上げる。そして、ブロッサが作戦の開始を告げる。


「サンダーブロー発射準備、エネルギー充填開始」


 ウィプス達が、前方の空間に魔力を込め始める。青・白・黄色の光が混ざり小さな球が出来上がり、次第に大きくなる。


 最初に、カンテが明滅する。


「充填率30パーセント」


 次に、メーンが明滅する。


「充填率60パーセント」


 次に、ルークが明滅する。


「充填率90パーセント」


 最後に、3人が大きく光る。


「充填率、120パーセント、サンダーブロー撃てます」


 目の前には、50cmほどの大きな雷の塊。


「目標補正無し」


『撃てっ!』


 雷の塊から極太のビームが、ゴブリンジェネラルに向けて発射される。ビームはゴブリンジェネラルが隠れている岩を掠めながらも、頭へと直撃する。


 一瞬にしてゴブリンジェネラルが消滅し、貫通したビームは湖の対岸まで届く。


『ソースイ、ブロッサ、後は頼んだわ』


 ムーアとルーク達は、魔力を使いきりブレスレットへと消える。


 ソースイとブロッサが、残りのゴブリン達に向かって突撃する。混乱状態に陥っているところに攻撃すれば、簡単に逃げ出す。


 ゴブリンジェネラルの居た場所にたどり着くと、そこには西側の湖と似た光景。


 西側の湖と一緒の形の石柱に、鎖で縛られたセイレーン。リズと一緒で上半身はヒト型で、下半身は魚型。リズとの違いは、髪型がショートカットくらいの違い。上半身は裸で隠すものは何もないが、鎖がイイ感じで隠している。


 そして、石柱はサンダーブローが当たったようで、西側の湖の石柱と一緒の大きさならば、先端の30cmは無くなっている。


 この時点で、もう石柱からの魔力吸収は止まっている。


「ソースイ、鎖を切ってくれ!」


「グラビティ」


 ソースイがハンドアックスにグラビティの重力を加えて、叩き切る。


 力無く崩れ落ちるセイレーンをブロッサが舌を伸ばし器用に受け止める。胸は舌で上手く隠されている。


「お姉ちゃんっ、大丈夫っ!」


 ベルが飛んできて声をかけるが反応はない。


「カショウッ、早く契約してっ!」


 ベルに急かされて、セイレーンの側に近寄る。憔悴しきっているが、微かに目が開いて俺の事を認識する。


「リタ、名前はリタだ」


 セイレーンは目を閉じ、俺に顔を向けてくる。心臓の鼓動が激しくなる。どうしたらイイ?


 恐る恐ると手が伸ばした瞬間、ブロッサがリタを俺から引き離すと、諦めたようにリタはブレスレットに消えていく。


「油断ナラナイワ」

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