第32話.リスタート

 準備が整い、オオザの崖を目指して、北へと進む。目的は、ゴブリンの異常発生を調べるため。ソーギョクの前では調査が目的といったが、実は戦う事も目的の1つ。


 今までは奇襲で戦ってきたけど、何時までもそれが可能とは限らない。ゴブリン相手なら、倍近い相手でも戦える。逃げるだけなら、それ以上でも大丈夫。


 だが腕力や魔力だけが力ではないが、戦う力を育てる。ルーク達が哨戒し、先頭にソーサ、次に俺が続き、最後はブロッサ。


 ソースイはこの森で暮らしているだけあって、森や山の中を歩くのに慣れている。移動中は盾を持たなくても大丈夫だし、アイテムルームもある。余裕があれば、適切な装備への持ち変えも出来る。


「ソースイ、新しい盾はどうだ?」


「もう少し大きくても大丈夫です」


「移動しにくいだろ?」


「移動する速度に影響が出たら考えますが、今はまだ大丈夫です」


「おっ、おうっ、そうか、その事も選択肢として考えておいてくれ」


 ソースイが盾を持っていても、一番遅いのは俺であり、苦笑いして返すしかない。


 ブロッサは伸びる舌を使い、器用に枝から枝へと移っている。所々で舌を伸ばし、何かをとっている。


「ブロッサ、何取ってるんだ?」


「木ノ身、苔、薬草、イロイロ」


「食べてるのか?」


「ポーション作ル、クオンノ部屋ニ沢山保管スル」


「ブロッサ、ポーション作れるのか?」


「薬モ毒ト一緒、材料アレバ簡単」


 もしかして、買わなくても良かったのか・・・。


 ブロッサは、俺の魔力消費の事だけを考えると召喚したままが良い。だが、オニ族の前では不要な揉め事を起こさない為、ブロッサは召喚していなかった。


 コミュニケーションは大事だな。クオンの影移動といい、知らない事が沢山ありすぎる。そしてブロッサでさえ、クオンのアイテムルームの事を知っていた。


 最後まで知らなかったのは俺なのか。俺だけが、何にも見えてないよな。


 時間がない。

 精霊と融合した体。

 精霊を召喚できる力。


 全部、時分だけでやろうとしてるな。自分の都合で、自分の基準で・・・。


 小さな力でも同じ方向に揃えば、大きな推進力に変わる。大きな力でも違う方向に向けば、前に進まない。バラバラにしてるのは、もしかして俺なのだろうか?


「それじゃ、ダメだな」


 1人で悩み、1人で考え、思わず呟いてしまう。


“大丈夫?”


『どうしたの?難しい顔してるわよ!』


「ゲロッ」


 精霊達が集まってくる。


「今のままじゃダメだと思うんだ」


『何が?』


「ブロッサがポーションを作れる事を知らなかった。クオンのアイテムルームの事も皆知ってたんだろ?」


『まあ、最初から知ってたわけではないけど、あなたが知ったのは最後ね』


「ブロッサがポーションを作れるなら回復役。アイテムルームがあるならソースイも、状況に応じて装備を変えれる」


『そうね、そういう選択肢もあるわね』


「俺が1人で空回りしてるのかなって」


 クオンがヒト型に戻って、俺の前に来る。


「私は、一番精霊。カショウとずっと一緒よ」


『最初から、協力してあげるって言ってるのよ。貴方といると面白そうだもの!』


「ボッチハ嫌」


 忘れるなと明滅する、ルーク・メーン・カンテ。ソースイは、ハンドアックスを軽く上に掲げている。何も言わないが伝わってくる。


『理屈っぽいのも知ってるわよ! こだわりが強いでしょ、たぶんB型ね! 神経質なのも理解してるわよ!』


「ムーア、もうイイよ。ホントに凹むから」


 クオンが前に出てきて、頭を突き出してくる。真剣な目でこっちを見てくる。んっ、これは撫でろって事だろうか?


 そっとクオンの頭に手を近付ける。クオンの期待の眼差し、キラキラの星が出てきそうだ。


 手を頭の上に置くと、目が細くなる。ワシワシッと動かすと、更に目が細くなり線のようになる。


「たまにはご褒美、嬉しい♪」


「ああ、分かったよ」


 コミュニケーションを取る時間が必要。だけど寝ないで大丈夫な体が、逆にその時間を失くしてしまった。


 気付くと、クオンの後ろにブロッサが並んでいる。


「私モゴ褒美スル。私モ女ノ子」


『「エッ」』


 もしかして、ムーアも知らなかったのか・・・。勝手に男にしてたけど、違ったみたいだ。名付けの時に拒否されなかったし。


 俺だけが何も聞かされない訳ではなく、言わない精霊が多いだけなのかもな。


 気付くと、ムーアにルーク達、ソースイも後ろに並んでいる。


 ルーク達は小さい。ムーアも女だし我慢するけど。ソースイ、お前は本当に大丈夫なんだな!



 再出発だ!これからの役割を確認しよう。


 クオンは探知、ムーアの支援、ブロッサは回復、ルーク達は攻撃、ソースイは防御。ブロッサはアタッカーにもなれるけど、今はブロッサ以上の回復役はいない。


 何でも出来る、やろうと考えるのはやめよう。もう、ぼっちじゃない!お互いの役割を決めれば、精霊達はお互いにフォローし上手くやってくれる。


 もっと信用して頼ろうと思うと、少しだけ視界が開けた気がする。

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