第31話.クオン先生とアイテムルーム

 ルーク達を追いかけて、クオンも居なくなる。今更ながら、クオンが影から影へと移動するのを初めて知った。瞬間移動のように消えては現れてを繰り返していく。


 異世界の精霊であるのに、どうしてもネコという姿で固定観念にとらわれてしまう。


 程なくしてクオンが、パントラとコーヒョウを連れて戻ってくる。二頭とも、動きがぎこちなくネコ科のしなやかさや滑らかさが無い。そしてクオンに見られる、ビクッと体を震わせる。


 そうだよな、同じネコ科だったら、特にクオンは可愛いと思うよ! 恐らく、こいつらはクオンに惚れたなと思う。


 そして、クオンに促されてパントラとコーヒョウはソースイの所へ猛ダッシュで走っていく。ぎこちなかった動きが嘘みたいで、気合いが入っている。

 きっと良いところを見せようとしているのだろうけど、ソースイのグラビティは手強い。それに父親としては、交際は絶体に許さん!


 ソースイの訓練の間、今度はクオンに俺の先生になってもらう。


「クオン、探知で教えて欲しい事があるんだけど大丈夫か?」


「何をするの?」


 珍しくクオンが人型になる。やっぱり教えるとなると喋る必要があり、ヒト型方がやり易い。


 俺の気配が探知は、部屋の中では問題なく使えた。だけど外だと、全く使い物にならない。風で揺れる草木、小動物や虫。余りも探知出来る動きが多すぎて、情報として把握する事が出来ない。


「俺の探知なんだけどな、使うと沢山の情報がありすぎて、分からなくなるんだ。クオンの探知も、やっぱり沢山の音が聞こえるだろ。どうやって聞き分けてるんだ?」


「いっぱい音を聞いてると、変な音が分かるの」


「変な音って、どんなだ?」


「風は風の音、草は草の音がするの」


 ヒト型になってくれはしたが、天才に話を聞いてしまったのかもしれない。俺の頭に、浮かんでいるクエスチョンマークが見えたのだろうか、クオンが悩み始める。


「うーんと、うーんと」


 悩みだすクオンに、少し悪い事をしたのかなと反省するが、今はクオンの出す答えを待つしかない。


「生き物の音だけを探すの。風の音と生き物の音は違うの。だから違う音だけを探すの!」


「そうか、全てを把握する必要はないんだ!草と人が動く時の変化が違うなら、変化する動きの特徴だけ覚えればイイんだ」


「うん、慣れれば全部分かるの」


「クオンは、全部分かってるんだ」


「うん、全部分かるの」


 やっぱり俺とクオンじゃ、スペックが違う気がする。


「カショウなら出来る、絶対!」


 それでもクオンに言われると、やれそうな気がしてくる。どんなに擦れた人間だって、クオンの言う事は素直に聞ける。そんな不思議な力がある!


 心の中で力説していると、ムーアが邪魔してくる。


『ちょっと、イイかしら?』


「何か用か?」


『ちょっと、扱いが違わない?差別だと思うわよ!』


「可愛いは絶対だよ!」


『何それ、頭おかしくなったの?それより、クオンも居るし、話があるのよ。驚かないでよ、あなたの影がアイテムボックスになってるの!』


「何言ってるんだ?」


『だから、クオンがあなたの影に潜ってるでしょ。影の中には空間があるのよ!』


「クオン、本当なのか?」


「うん」


 クオンがネコ型に戻って影に潜る。そして戻ってきた時には、口に袋を咥えている。


 中には魔石が入っている。ゴブリンを倒した後、クオンが魔石を回収していたみたいだ。


「凄いぞ、クオン。試しに何か入れてみてイイか?」


「いいよ」


 俺は土オニの短剣を影の上に置く。影の上に置いた短剣は静かに沈んで消えていく。


「おおっ、凄いアイテムボックスだ!今度は取り出すぞ」


 影の上に手を置く。静かに手が影の中に入り・・・何もおきない。


「何も無いぞ」


『クオン、どうなってるの?』


 クオンがムーアを連れて影に潜る。そして、ムーア一人が短剣を持って戻ってくる。


『天井から、あなたの手が出てたわよ』


 影の中は、クオンの部屋。上から手を入れれば、天井から手が出る。不思議と当たり前が融合した空間。アイテムボックスではなく、アイテムルーム。保管容量もバッチリだけど、そこから出してくれる人が必要。


 今の状態でも、あれば役立つのは間違いない。


「だけど、どうやって使うんだ?」


『管理人でも雇ったら?』


 面倒事を感じ取ってか、ブレスレットに吸い込まれムーアは消えてしまう。


「逃げやがったな~!」

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