第26話.探知スキルとムーアのお仕事

 ソーギョクの部屋から、無事客間に案内される。ソースイも従者用の部屋に案内されていたので、とりあえずは一安心する。

 俺を部屋に案内してくれた赤オニには、ソースイに明日の朝に部屋に来るようにとだけ伝言を頼む。


 ここもソーギョクの部屋と同じで、無駄に広く豪華な部屋の造りに対して、家具などは小さく、こぢんまりしている。ここのドワーフの価値観として、家具などには興味が無いのかもしれない。


 俺はローブを脱ぎ、椅子の背もたれに掛ける。ベッドの上に横になり天井を眺めると、木目や石の模様が、目や鼻、口と顔の様に見えてくる。


 森や湖、沢山の自然がある中でも、俺の前に現れてくれる精霊はいない。俺が契約出来たのは、影、雷、酒、毒の4つの精霊。

 物語の序盤としては十分なのかもしれないが、あくまでも物語の場合。そして、メジャーな火・水・風・地属性の精霊は、俺に姿すら見せてくれない。


 属性同士の相性はあるが、無属性との相性が悪いのかと不安になる。


 だが、それはいくら考えても答えは出ない。日課の魔力操作の訓練をしようと体を起こした時、違和感を思い出す。


 村の門を通った時の違和感。もっと正確に云えば俺が門番の前を通過した後、ソースイが通ろうとした瞬間の違和感。


 門番がソースイに対して嫌悪感を示したと感じたが、順番が違う。ハルバードの斧頭が微かに動いた事で、嫌悪感に気付いた。


 もしかして、これが気配探知魔法なのかと気付く。


 今までと何が違ったのか、何が変わったのかを意識してみる。体の周りには、魔力がオーラのようになって留まっている。

 今までと違って、留まっている魔力量が多い。俺を中心に5mは魔力が漂っている。


 ドラゴ○ボールのオーラのように、音が聞こえるような物凄い勢いのオーラではない。

 ジワジワと滲み出た魔力がドーム状となり、体の周りを漂っている。普通は排出された魔力は飛散して消えてしまう。しかし、無属性は異なる。


 マジックソードやシールドを解除すれば、再び体内に吸収され戻っていく。これは無属性魔法の特徴。使用する魔力は他の属性と比べて10倍。しかし魔力自体は消費しない。


 今日は訓練よりも検証をしてみる。体の周りには漂っている魔力を魔力操作で1ヶ所に集める。どこから魔力が漏れ出てくるのかを見つける為。


 体から漏れ出す魔力は、無いわけではないが微量。魔力が体の中を循環する度に、毛穴から滲み出るような感覚で漏れる。これはごく微量で、ここまで体の周りを漂う量にはならない。


 次は、物質化魔法。マジックソードを出して、すぐに解除する。解除された魔力の塊は、俺の周りには直ぐに体に吸収されてしまう。


 最後は、召喚魔法。ブロッサを召喚魔法で呼び出す。


「ブロッサ、出てこい」


「ゲロッ」


 だが特に何も起こらない。


「ブロッサ、戻ってイイぞ」


「ゲロッ」


 ブレスレットに戻る瞬間、僅かに魔力が残る。体には直ぐに吸収されずに、俺の周りを漂う。


 もう一度、同じことを試してみる。


「ブロッサ!」


「ゲロッ」


「ブロッサ!」


「ゲロッ」


「ブロッサ!」


「ゲロッ」


「ブロッサ!」


「ゲロッ」


  召喚を解除する度に、少しずつ漂う魔力が増えていく。今度は、更に連続して召還の繰り返し。


 目の前で固まるブロッサ。


「今ドッチ?」


「戻ってイイぞ!」


「ゲロッ」


 何となく原因は分かったな。


「ムーア、分かってるんだろ?」


『エヘヘッ、バレたみたいね』


「それ、似合ってないからな!」


『せっかく可愛くしてみたのに、冷たいわね』


「残念だけど、俺の趣味じゃない」


 脱線しそうになった時、扉をノックする音がする。

もう朝になり、ソースイがやって来た。といっても日の出と同時にやってきたようだ。確かに、それでも間違いではないが・・・。


 俺の事が心配なのと、俺の従者で客人として扱われる事に耐えられなくなったんだろう。まあ、せっかくだからソースイにも検証に付き合ってもらう。


 俺の周りに漂っている魔力の大半は、精霊を召喚して戻すときに出来る残滓の魔力。


 一度精霊に取り込まれた魔力も、再び俺に還る。しかし、再び吸収するには時間がかかり滞留する。


 その滞留する魔力濃度を調整する。薄い状態から濃い状態へと少しずつ。そしてソースイには、その魔力の中で動いてもらう。


 目を閉じ、魔力の動きに集中する。ソースイの動きに合わせて、魔力が動くのが分かる。はっきりと動きが分かる訳ではないが、風が吹くような感触。


 右から左へ、上から下へと動きが分かる。魔力の濃度を上げれば感覚は鮮明になり、薄くなればぼやけてくる。


 これが気配探知魔法なのか。魔力操作による濃度調整に課題はあるが、慣れればソナーようになるかもしれない!


「ムーア、待て!」


 黙って戻ろうとするムーアを呼び止める。


『ソースイが居れば大丈夫でしょ』


「お前が勝手に出入りしてるから、残留する魔力が増えたんだろ」


『勝手に出入りは、ダメだったかしら?』


「好きに出入りして構わないぞ!」


『それならイイわ!』


「その代わり魔力濃度を決めるから、薄くなるようなら調整してくれ!俺も管理しやすくなる♪」


『えっ・・・』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る